特許調査におけるAIの役割は業務補助
結果は精度100%ではない

 AIは完璧なものではなく、多くの未熟な人手だと考えれば自ずと任せられる業務は決まってきます。特に特許調査では、その量とノイズの多さが業務上の負荷になっているので、AIの適性が高いと考えることができます。

 特許調査を作業パターンで分類すると大きく2種類に分けることができます。特許検索システムで検索をして抽出された特許文献を確認する方法と、毎月同じ検索条件で特許を抽出し確認する作業です。

 これらの手法で特許文献を抽出してみると、本来確認が必要な特許は1割以下で、残り9割はノイズという状態で抽出されます。つまり作業時間の大半が無駄な特許文献の確認に費やされているということになります。この状態では業務効率は上がりませんし、人間が判定する以上はノイズ情報を見続けるとモチベーションが落ちてきます。

 そこで、AIを使います。社内で過去の特許文献を評価したデータを教師データとしてシステムに読み込ませると、文書の判定をさせると抽出された特許文献がノイズに近いのか、必要な特許文献に近いものかを判定することができます。類似度をパーセント表示すれば、その割合が高い順にソートして並び替えることで、確認すべき特許文献とノイズである特許文献を大まかに分別することができます。

 また毎月同じ検索条件の新規特許を抽出し、確認するという場合には、さらにこの判定精度を上げることが可能です。検索で抽出した特許に対して、必要なキーワードと不要なキーワードの複数を別のAIに登録することで、キーワードの含有状況を示すことができます。これを、教師データを基に判定した結果と合わせて集計を掛けることで、より高精度のノイズ除去が可能になります。

 作業のポイントは、このノイズ除去を100%の精度の結果として使用しないことです。

書影『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)『日本の開発力を甦らせる知財DX』(幻冬舎メディアコンサルティング)
古川智昭 著

 あくまでAIが実行したのは、確認すべき文献と、ノイズである文献の可能性による分類です。最後は必ず人間が確認する作業が必要です。しかし、確認するべき文献とノイズである文献であるという可能性が事前に分かっている状態と、それらが分別されず混在している状態では、確認していく作業の質が大きく異なります。AIを使用したほうがはるかに効率的に作業を進めることができることは明らかです。

 AIの判断と人の判断を重ね合わせることで、従来に比べれば非常に短時間で作業でき、負荷は軽くなり、かつその判断の精度を高めることができます。これこそ、AI活用の大きな利点です。別に、AIの精度に期待をし過ぎる必要はありません。あくまで、AIに必要とされている能力は人の判断の補助だと考えれば、AI活用の障壁は非常に低くなるはずです。