違反者に恨まれても
危険抑止に動く警察の事情

 酒気帯びやスマホながら運転への罰則の検討とは別に、警察庁は悪質な違反に対しても青切符の交付を可能にする検討を進めている。青切符は警察が違反者に行政手続きとして反則金の納付を通告。期間内に納付すれば刑事事件として起訴されず、納付しなければ刑事手続きが進む制度だ。

 現在は自動車やバイクの運転者が対象で、自転車でも悪質なケースは刑事処分の対象となる交通切符(赤切符)を交付している。ただ赤切符は起訴を前提とした捜査が必要で、警察と取り調べを受ける違反者の双方に負担が大きい。

 これまでも酒酔いのほか、信号無視や遮断機が下りた踏切への立ち入りなど14項目の違反を「危険行為」と指定。赤切符が切れないようなケースは「指導警告票」を手渡し注意喚起していたが、違反を繰り返す人は絶えず効果は薄かったようだ。

 実は自転車の違反行為に対する摘発は、06年に統計を取り始めてから年々増加し、昨年は2万4549件に上った。内訳は信号無視1万2498件、指定場所一時不停止4679件、遮断踏切立ち入り3880件など。

 14項目とは別に「あおり運転」も危険行為と定められている。最近ではテレビなどで繰り返し放送された「埼玉のひょっこり男」がご記憶に新しいのではないだろうか。

 20年9月~10月、自転車で対向車の前にいきなり飛び出す男(当時33)の行為に、埼玉県警があおり運転容疑を初適用。その後、同罪で起訴され、21年5月のさいたま地裁判決は「重大な事故を引き起こしかねない悪質な犯行」として、懲役8月の実刑判決を言い渡した。

 この事件はあまりの悪質性から、埼玉県警と地検が逮捕→起訴→実刑を見据えていたとされるので参考にならないかもしれないが、自転車の危険な運転は警察にとっても悩みのタネだった。

 筆者と古い付き合いの警察庁幹部が電話でこう話した。

「違反者に反則金を納めてもらっても、警察には何のメリットもありません。むしろ恨まれるだけ。でも違反者にデメリットを知ってもらうことで、危険運転が減ればそれでいいんです」