ここ数年、「企業理念」を新たにつくろうとする動きが強まっています。というのも、単なる利益の最大化だけでなく、「社会的意義がある活動をしているか」という評価基準が、消費者・パートナー企業・投資家・従業員にとって重要になってきているからです。
これからの時代は、事業の社会的価値を示せない会社は存続することが難しく、会社全体で目指す方向性を言語化した「企業理念」を中心に据えた経営が不可避になっていきます。
そこで今回は、企業理念のつくり方・活かし方を網羅的に解き明かし、「新時代の経営本の決定版」「この本はすごすぎる」と話題の『理念経営2.0』の著者・佐宗邦威氏にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)で寄せられた質問への、佐宗氏の回答を公開します。(構成/根本隼)
Q. ビジョンのつくり方がわかりません
読者からの質問 ベンチャー企業に所属しています。今後5年間の全社的なビジョンを新たに設定することになり、外部委託ではなく従業員自らの手でつくることに決めました。
しかし、ビジョンを策定するにあたって、何から始めればいいのかわからず、困っています。コツなどがあれば、教えてください。
「トップダウン式」のビジョンでは一体感が生まれない
佐宗邦威(以下、佐宗) 実はいま、ある組織のミッション・ビジョン・バリューをつくるプロジェクトに携わっているのですが、担当の方がまったく同じことをおっしゃっていました。初めての人にとってみれば、「理念を策定する」というのは途方もない大事業のように感じられますよね。
しかし、完全なゼロベースからスタートするときは、いくつかある企業理念のなかでも「ビジョン」は比較的つくりやすいです。
会社トップだけでなく従業員を巻き込んでつくりあげたビジョンには、組織に一体感をもたらす力があります。一方、経営陣だけでつくったビジョンをトップダウン式に「覚えてください」と伝えるだけでは、まったく一体感が生まれません。
あるべきビジョンのつくり方
佐宗 なので、つくり方は工夫する必要があります。『理念経営2.0』では、ビジョンを議論する方法として、「未来新聞」というエクササイズを紹介しました。
やり方はとてもシンプルです。
(1) 時間軸を定めずに、会社にとって理想的な未来の出来事を思い描く
(2) その出来事がメディアに取材されたら、どんな記事になるのかを想像する
(3) 実際に記事を書く。その際に、見出しとその出来事の具体的な内容のほかに、以下の問いに対する答えも考えて書き出してみる
・いつ、どのような出来事が起こったか?
・その出来事が実現した結果、自分の周りの人の生活にどんな変化が起こったか?
・その出来事が実現する上で、自分たちのどのような能力が使われたか? そのために自分たちはどのように協働したのだろうか?
・その出来事が実現する上で、大きな壁は何だったか? それはどのようにして乗り越えられたか?
望ましい出来事だけを想像するのではなく、それを達成するために必要なスキルや、乗り越えるべき壁などのネガティブな要素を考えることで、楽観的な理想論で終わらずに「現在と未来」をつなぐ物語をつくることができます。
そして、それぞれの書いた内容を突き合わせながら、自分たちの組織にとって何が成功なのか、どんな未来が望ましいのか、という問いに対する共通イメージを抽出していくと、目指すべき方向=ビジョンが見えてきますよ。
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『理念経営2.0』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・佐宗邦威氏の回答です)