そもそも、北朝鮮本国の指示により武器を用いて破壊工作といった話は飛躍している。
朝鮮半島情勢に精通した元公安調査庁調査第2部長でインテリジェンスの第一人者でもある故・菅沼光弘氏は「かつて1960年代から70年代にかけては、北朝鮮のテロ組織が日本に存在していたが、そもそも北朝鮮は韓国に渡って工作・破壊活動や世論誘導を主たる目的としていた。韓国に潜入するには日本人を偽装する必要があり、そのために日本人拉致が行われた」「北朝鮮の有事において日本を攻撃する事態となれば、北朝鮮は特殊部隊を日本に送り込むだろう。ミサイルも多数保有している」とメディアに語っており、スリーパーセルによる破壊工作には否定的だ。
一方で、“隠れた工作員”として一般市民に偽装し、偽情報の流布や情報収集、資金獲得などの工作活動を行うことは、スパイの手段として当然想定されており、そのような工作員=スパイは存在するだろう。
産経新聞は昨年9月、北朝鮮の最高指導者だった金正日(キム・ジョンイル)総書記時代に、北朝鮮の秘密警察である国家保衛省が、6000~7000人のスパイを日本など各国に派遣していたと報じている。
北朝鮮スパイやその協力者は日本全国に潜んでいる。
中国・ロシア・北朝鮮だけではない
日本で活動するスパイたち
日本で活動するスパイについて、ここまでロシア・中国・北朝鮮について解説したが、実際はこの3国に限らない。
過去にはブルガリアによるスパイ活動があった。
1984年、在日ブルガリア大使館2等書記官O・ポピバノフは、バイオテクノロジーを中心とした技術情報の入手を企て、複数の日本人専門家に接近し、極秘資料の提供を執ように要求するなどスパイ活動を行っていた。
また、イスラエルの諜報機関「モサド」、米中央情報局(CIA)や英秘密情報部(MI6)も当然日本と無関係ではない。
筆者の知人である元モサド機関員は、日本を取り巻くスパイとその対策の現状について、イスラエルの状況と比較した上で、日本の対策の遅れと危機意識の低さに極めて深い懸念を示していた。
スパイは我々のすぐそばにいる。
その事実を認識し、法整備もさることながら、我々も社会においてカウンターインテリジェンス(対スパイ=防諜)の意識を醸成しなければならない。
(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村 悠)