ここで〈教え〉に富んだ3つの寓話を紹介したい。
『お釈迦様が問う人生の長さ』
何を積み重ねると人の一生になるか
弟子の1人が「50年くらいでしょうか」と答えると、お釈迦様は「違う」と言った。
今度は別の弟子が「それでは40年くらいでしょうか」と答えたが、お釈迦様は首を横に振った。
「30年くらい?」「20年くらい?」「10年くらい?」……。お釈迦様はいずれの答えに対しても首を横に振るだけだった。
ついに弟子の1人が「1時間くらい?」と答えた。それでもお釈迦様は首を横に振るだけだった。
そして、最後にある弟子が「一呼吸の間だけでしょうか」と答えたところ、お釈迦様は初めて「その通り」と大きくうなずかれた。
呼吸とは、息を吸ったり吐いたりすることで、空気中の酸素を取り込み、二酸化炭素を外に出すことだ。もう少し詳しくみると「息を吸う」(約1秒)→「息を吐く」(約1.5秒)→「休息期」(約1秒)という流れになる。
一呼吸に要する時間を4秒とすれば、私たちは1日に21600回の呼吸を繰り返す。一呼吸の積み重ねが1日であり、1日の積み重ねが1年、1年の積み重ねが人生だと考えれば、一呼吸の積み重ねが人生ということになる。
教育学者の齋藤孝は休息期(息を吐ききって次に息を吸い始めるまでの間)について興味深いことを述べている(『呼吸入門』角川文庫)。
休息期とは「生きていることの中にすでに死が紛れ込んでいる」という「一番神聖な瞬間」である。それは「仮に訪れた死という瞬間」にも思える。その瞬間、瞬間を「平静に受け入れる」ことが「1つの死生観の訓練にもなる」。そう考えれば、一呼吸、一呼吸が死の予行演習をしていることになる。
『画家ロセッティと老人』
才能は使わなければ消えていく
ロセッティは丁重に「これは人並みの出来だ」と答えた。そこで老人は、他にも数点の絵を見せた。
明らかに若者の手によるとわかるその作品にロセッティは目を奪われ「これは確かに偉大な才能の出現であり、訓練と練習を積めば大画家になれるであろう」と褒め称えた。