老人が息をのんでいるのを見たロセッティは「これを描いたのはあなたの息子なのか?」と尋ねた。

 老人はこう答えた。「いえ、これらは私が若い頃に描いたものです。でも私は周りに説得され、別の仕事に就いたのです」

 老人の才能は消えてしまっていた。使わなければ失うのだ。

「才能が花開く」というフレーズをよく聞く。正確に言い直せば「才能の芽が長い時間をかけた修行の末に花開く」ということになる。植物であれば、時間が経過すれば自然に花が咲くであろうが、人間の場合はそうはいかない。

 この寓話の主人公は周りに説得され、画家への道を諦めて別の仕事に就いた。第一歩を踏み出し、熟慮を伴う修練を続け、経験を積み重ねていく道を選ばなかった。生まれ持った才能がどんなにすごいものであっても、使わなければそれはどんどんしぼんでいく。

 主人公には我がままさが足りなかった。“我が意のまま”の生き方ではなく、“周りの意のまま”の生き方を選択した。才能が花開くには生まれ持った能力の他に、我がままさという要素も必要なのだ。

『カーライルの助言』
整理整頓は仕事の半分である

 思想家として名高いトーマス・カーライルの家を1人の婦人が訪ねた。「先生、私は家庭のことや人生のことでいろいろと悩んでおります。どうにかして私の悩みを解決する道はないものでしょうか?」

 婦人はそう言って、その悩みの数々をカーライルに打ち明けた。カーライルは婦人の打ち明け話を最後まで聞いて、こう答えた。

「まず自分の裁縫箱を調べなさい。乱れた糸があったら糸巻きにきちんと巻くことです。次にタンスの中を調べて、取り散らかっていたら中を整理することです。私が申し上げられるのは、それだけです」

 婦人は首を捻ったが、何か深い意味があるに違いないと思って帰宅した。

 1週間後、先の婦人がカーライルの家をまた訪ねてきた。

「先日は誠にありがとうございました。帰りまして、裁縫箱を調べましたら、乱雑になっていましたのでさっそく整理しました。次にタンスの中も整理しました。気がついたら、家中の整理をしていました。そうこうしているうちに、先生のおっしゃりたいことがわかってきました。〈人生は整理されたものでなければならない〉─そういうことですね」

 カーライルはにっこりと笑ってうなずいた。