「とはいえ単にナトカリ計を設置するだけではだめなんです。ナトカリ比の意味さえ分かる人はあまりいないし、ナトカリって言われて、塩と野菜をイメージできる人も少ない、塩を減らす、あるいは野菜を増やすと体に良い、その指標がこんなに簡単に測れるのだという知識とセットが必要です」(寳澤教授)
ナトカリ比の目標は
「毎朝2.0」が基準値
普及促進には他にも課題がある。ナトカリ比には、高血圧のような基準値(診察室血圧値で140/90mmHg以上、家庭血圧値で135/85mmHg以上)がまだ設定されていないのだ。
そこでグループは、機構の健康調査およびオムロン共同研究に参加した 3,122 人のデータを用いて、家庭高血圧に対する朝の尿ナトカリ比の必要測定日数や目標値について検討した。その結果、尿ナトカリ比が高いほど、家庭高血圧の有病率が直線的に増加していたことがわかった。また、尿ナトカリ比と家庭高血圧との関連について、安定性の観点からは3日間以上の測定が望ましいことが考えられた。
さらに『日本人の食事摂取基準 2020 』 に記載されている目標値を基にナトカリ比を算出したところ、男女ともに 2.0 であったことから、近い将来、ナトカリ計が家庭に普及した暁には、家庭高血圧に対する朝の尿ナトカリ比の目標値は2.0 を目安とし、測定日数については3日間以上が望ましいことが示唆されたという。
「ナトカリ比がだいぶ市民権を得て来たので、高血圧学会でも基準値を決めるワーキンググループが立ち上がり、私も委員に選ばれました。『朝のナトカリ比は2.0がよい』という基準値を早く皆さんにお伝えしたいです」(寶澤教授)
ナトカリチャレンジの取り組みは、同機構が「持続可能な自助・共助の『分散型健康生産社会』を実現する産学官民連携『日常人間ドック』エコシステムの構築」で、第 5 回日本オープンイノベーション大賞選考委員会特別賞を受賞する決め手にもなった。
2023年5月には、オムロンヘルスケアとカゴメも参画して、一般社団法人 ナトカリ普及協会を設立した。いいこと尽くしの「ナトカリ比測定からの食生活改善」が、燎原の炎のように日本中に普及することを願い、応援しよう。
(監修/寳澤篤・東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授、取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美)