エコーチェンバーにかかった
集団の最近の特徴
そこで、2年前の特徴に加え、新たな特徴をここに挙げたい。
(4)インプレッションを過度に重視する
Xでインプレッション数(タイムラインに表示された回数)が表示されるようになったのは2022年12月頃ではないか。それまでも自分のインプレッション数を確認することはできたが、他人のインプレッション数を確認できるようになったのは、筆者の知る限り、昨年末からだ。
フォロワー数やRT、いいね数よリも、インプレッション数は直接的に投稿者の影響力を示すようになってきた。エコーチェンバーにかかった集団が特に気にするのは、自分たちが敵視する集団よりもインプレッション数があるかどうか、敵を「攻撃」する投稿がどれだけインプレッション数が伸びたかである。
(5)陰謀論同士での結びつき
先述した藤田氏のコラムでも言及されているが、別々のターゲットに執着していた二つの集団が、陰謀論に陰謀論を重ねる中で共通の「敵」を見いだして合体することがある。他の大きな集団を丸ごと一気に仲間に引き入れることができれば、それだけインプレッション数を伸ばすことにもつながる。
ネット上では時折「みんな言っているから、これが正しいんだ」といった趣旨の言及を見かけることがある。自分の主張の根拠を言っている人の数の多さで示そうとするのである。もちろんこれは論理的ではないし、「言っている人の数の多さ」自体がエコーチェンバーの産物である可能性もある。しかし「みんな言っているから」に左右される人がいるのは事実であり、だからこそ集団は、自分たちの味方を増やすべく虎視眈々(こしたんたん)と別の集団とつながることを狙うのかもしれない。
(6)エコーチェンバーを集金につなげる
Xをつぶさに確認している人なら、ここ1年でこの動きが活発になっていることがわかるだろう。具体例を挙げれば、「敵」と認定した相手への訴訟や、「敵」からの訴訟に備えるという目的でカンパを集めるなど、「敵」との戦いを理由に寄付を募る行為が見られる。
これは、好きなインフルエンサーやタレントなどにファンが、YouTubeの投げ銭機能「スーパーチャット(スパチャ)」や有料noteの販売、あるいはAmazonの「ほしいものリスト」を利用して、金銭や物品を贈る行為から派生したとみられる。最近特徴的なのは、直接、口座番号をネット上に公開してカンパを募る点だ。また単なるファンではなく、「同じ敵を持つ同志への応援」といった感覚でカンパを行う人が増えているように見える。
カンパは相手に対する尊敬や敬愛の一つの形というだけではなく、「敵」への攻撃になることが意識されているのだ。自分の敵対する集団がどれだけ嫌われているかを示すために率先して、エコーチェンバーにかかった人たちはカンパをする。そして集まったカンパ額を誇る。そのような心理状態もうかがえる。
(7)離反者に対するリンチ
エコーチェンバーにかかった集団がいつまでも一枚岩というわけではない。むしろ、ささいなことから、同じ集団にいるフォロワー数の多いインフルエンサーに疑問を持つなどして、集団から離れる者もいる。
すんなりと離れられれば問題はないが、この際に離反者として元の集団からネット上でのリンチ行為が行われることがある。元々いた集団を批判したり、「敵」とされた集団への理解を示したりした場合である。
ネット上で少なくない数の人から罵詈(ばり)雑言を浴びせられるだけでもつらいが、それが元々の仲間だった場合はなおさらだろう。また、ネット上の書き込みのみならず、個人情報がさらされるなどの被害も一部では見られる。
これらの特徴をまとめると、ここ2年の間にもネット上でのエコーチェンバーをめぐる問題は複雑化していることがわかる。
やはり特筆すべきはエコーチェンバーを利用した集金が行われやすくなっていることだ。詐欺行為をたくらむやからは、このような風潮を見逃さないであろうから、今後は集金目的で仮想敵を作り上げたり、集金目的で特定集団をたたく行為をもくろむ者が出てもおかしくはない。
こんなことを考えれば考えるほど、つくづくXは使いにくいサービスになってしまった。いつ自分がたたかれる対象となってもおかしくない。そんな危機感を覚えてしまうのも、自分のタイムラインによるエコーチェンバーゆえだろうか。