加えて業界を不安にさせたのは、今年4月以降、今までなら市民が街に出て消費を楽しむ連休や夏休みなどでさえ大して売り上げが増えなかったことだ。特に“香港のゴールデンウイーク”と呼ばれる4月のイースター休暇には、あまりの閑古鳥ぶりに思い切って休みにした飲食店まで出た。というのも、香港市民はこの時期、連休や週末を利用して海外や中国に旅行に出かけるためだ。中でも近場で飲食、風景、温泉などを楽しめる日本への旅行は空前の大ブームとなっている。

 香港には外国人が来なくなった。中国人も物価の高い香港を敬遠する。市民は海外旅行で消費する。このままでは、どうにかコロナ期を生き残った観光業界も細るばかりだ……ということで、香港の魅力を対外的にアピールしなければと、政府は慌てて「ナイトバイブ香港」キャンペーンを画策したのである。

きらびやかな看板も夜景も……
「香港らしい景色」がどんどん消えている

 香港といえば、多くの人の脳裏にはあの路上をまたぐような大きなネオンサイン、ビクトリアピークやビクトリアハーバーの両岸から見える夜景が浮かぶだろう。だが、路上にせり出すような大型看板は老朽化が指摘され、またその看板の主である商店はすでに閉店、撤退しているケースも多く、ここ数年来香港政府がその撤去を進めている。このため、かつて観光客を引き寄せたあのド派手なきらびやかさはすでに観光写真で見るしかなくなっている。同時に路上ネオン看板を製作する業者もほとんどいなくなっており、香港ネオンは歴史の遺物になりつつある。

 また3年間のコロナ対策期が明けて顕著になったのが、香港人の生活が大きく変化したことだ。筆者も今年3月と6月にそれぞれ1、2週間ほど滞在したが、その兆候は明らか。繁華街やショッピングアーケードを歩く人の数はウインドーショッピングを楽しむ人を含めて昼も夜も明らかに減っており、特に夜は以前の香港に比べるとまったく活気がなくなっている。コロナ期に潰れたり撤退したりした店舗の空きがあちこちで目につき、昔は夜の10時、11時まで路上ショッピングが普通に楽しめた通りも、10時頃には人通りがすっかり寂しくなっていた。

 友人たちと夕飯に出かけた時のレストランの人気(ひとけ)の少なさにも驚いた。これまでならうるさいくらいににぎやかだったレストランの席はあちこち空いており、友人たちとじっくり話はできたものの、4人なのに5、6人は軽く座れるような大きなテーブルをあてがわれ、逆に妙な距離感を感じて落ち着かなかった。