子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。
大人との会話が、論理的に話す力を鍛えていく
思考力とは一見関係なさそうに見えますが、「話す力」は実は思考力の重要な構成要素です。
人前で堂々と話したり、相手に自分の気持ちや意見を正確に伝えたり、論理的かつわかりやすく物事を説明したり、相手の気持ちを感じ取り適切な言葉で表現するなど、非常に高度なコミュニケーションスキルです。
話す訓練をすると、自分の思考が整理されて、自分は何を伝えたいのか、そのポイントがクリアになっていきます。
話す力を伸ばすには年長者と話をすることが近道です。子ども同士の対話では論理的に話す力は身につきません。
子どもにとって一番身近な年長者は親ですから、まずは何でも話し合える良好な親子関係を構築することが第一。
そして親は、子どもとの会話の中に「なぜ?」「どうして?」「誰が言ってたの?」「本当の話かな?」と質問を投げかけます。
親が上手に質問することによって子どもは、より深く考えて発言できるようになっていきます。
演劇を通して「話す力」を獲得し、自信につながった
日本人の母親とアメリカ人の父親を持つジャニスちゃん(仮名)はシャイな女の子です。
人と接する時に何となく不安になってしまい、思っていることがなかなか口から出てこなくなってしまいます。
そんなジャニスちゃんを変えたのが演劇との出合いです。
小学4年生の時、芸術鑑賞会で演劇を観に行きました。その舞台では数人の俳優が一人でいくつものキャラクターを演じていました。
キャラクターが変わるたび、表情から話し方までガラリと変わり別人になります。
その姿に衝撃を受けたジャニスちゃんは「自分でも演劇をしてみたい」と思い立ち、子ども演劇に参加することを決めたのです。
実は演劇は、コミュニケーション力を鍛えるのに最高の習い事です。周囲の子どもと息を合わせてセリフを言い合ったり、一緒にダンスをしたり、歌をうたったり、すべてにおいて周囲との親密なコミュニケーションが要求されます。
コミュニケーションする相手は子どもだけに留まりません。脚本を書く人、衣装を作る人、ダンスを教える人、歌を教える人、演劇を教える人、様々な大人たちとも交流しながら一つの舞台を作り上げていきます。
演劇を習うことでジャニスちゃんは言葉づかい、表情、動作などを磨き、自分に自信が持てるようになっていきました。
そして、コミュニケーションスキルが上達することで、今までは「自分から友だちに声をかけなければ」と必死になっていたのに、自然にジャニスちゃんの周りには人が集まってくるようになったのです。
同性だけでなく異性からもよく声をかけてもらえるようになり、さらに学校の先生ともよい関係を築けるようになり、何かにつけて(勉強面でも)助けてもらえるようになりました。さらには友だちの父兄からよくしてもらったりと、いいことずくめに。
話す力を伸ばすことは、子どもが自分に自信を持つことにつながるのです。
話す力を伸ばすアメリカの教育の例
アメリカの学校教育では、話す力の育成が幼稚園から大学まで段階的に行われています。
幼稚園(アメリカの幼稚園は小学校入学前の1年間のみ)では、自分の好きな物をクラスメートに紹介する「Show and Tell」というアクティビティーが定番です。
生徒はクラスメートの前に立ち、自分の好きな物を見せながら、なぜそれが好きなのか、エピソードを交えながら、決められた時間内でおもしろおかしく説明します。
たとえば、お気に入りのぬいぐるみを持っていき、それをみんなに見せながら、「名前はミッキーです。4歳の誕生日におばあちゃんからもらいました。ふわふわで可愛いからいつも一緒に寝ています」とぬいぐるみにまつわるストーリーを話します。
「Show and Tell」の目的は、人前で堂々と自分の意見が言えるように場慣れさせることです。小さい声でぼそぼそ話していると、「聞こえません!」「わかりません!」とクラスメートからツッコミが入ってしまいます。
小学生になると、プレゼンテーションを通して、論理的に話す技術を学んでいきます。たとえば社会の授業では「ジョージ・ワシントンについて」というテーマでプレゼンテーションをさせます。
生徒は独自にリサーチを行い、パワーポイントを使ってプレゼンしたり、ジョージ・ワシントンに扮して本人になりきってプレゼンしたり、歌を作ったりと個性を発揮して自由に発表することができます。
さらに小学校高学年から中学ではスピーチを学びます。一学期かけて準備してきた原稿を暗記して、身振り手振りを加えながら、全校生徒の前でスピーチをします。
生徒や先生が審査員となって、スピーチの内容、声の出し方、話すスピードや間合い、ジェスチャーの使い方、目線や表情の使い方などを細かく審査し、順位をつける学校もあります。
中学から高校にかけてはグループプロジェクトやディベートや模擬裁判などを通して「論理的に話す力」を学びます。
グループプロジェクトは数人のグループごとに与えられた課題についてリサーチし、意見をまとめて発表したり、ディスカッションを行うものです。チーム全体で評価されますので、チームワークやリーダーシップが要求されます。
ディベートは、ある議題について「賛成派」と「反対派」にグループを分けて、それぞれの立場から、根拠を述べ合い、説得力を競い合うものです。
たとえば「原発は廃止すべきだ」というトピックについて、「賛成」と「反対」の立場から、それぞれが理由と根拠を論証していきます。より高い説得力と合理性を持って理論を構築したチームが勝ちです。
ディベートでは、どちらのチームが「賛成」「反対」になるか直前まで知らされないことが多く、賛否分かれる議題について、その両面の立場から議論を作ったり、反証する訓練を積むことができます。
賛成と反対、一つのトピックについて両面から深く検証することで、自分の固定観念やバイアスに気づくことができ、クリティカルシンキングの能力を身につけることができます。
(本原稿はToru Funatsu著『すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。』から一部抜粋・編集したものです)