「会社に対する不満が蔓延している」、「なぜか人が辞めていく」、「社員にモチベーションがない」など、具体的な問題があるわけではないけれどなぜだかモヤモヤする職場になっていないだろうか。そんな悩みにおすすめなのが、近年話題の「組織開発」というアプローチだ。組織開発では、「対話」を通してメンバー間の「関係の質」を向上させていく。そんな組織開発のはじめ方を成功事例とともに紹介したのが、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)だ。本記事では、発売後即重版となった本書の出版を記念して、組織開発的な観点から職場にありがちな悩みの改善策を著者とともに考えていく。

エース級の若手社員がさっさと見捨てる、「人が辞めていく組織」の特徴Photo: Adobe Stock

人がどんどん辞めていく職場でも、残るべき会社と去るべき会社

――転職が一般的になった時代、特に若手のエース社員を中心に「できる人から辞めていく」ことに危機感を覚える方も多いようです。退職の理由は人それぞれとはいえ、突然周りの人が退職することで、不安を覚える方もいるのではないでしょうか。このような状況で、残るべき会社と去るべき会社の違いはどのような点にあるのでしょうか。

 まずは、「残るべき会社と去るべき会社の違い」を測る物差しについて考えてみましょう。

 組織開発では、組織の「良さ」を測るために「効果性」「健全性」、そしてそれらを良い状態に保つ「継続性」の視点があります。

「効果性」とは「予算を達成する」「ヒット商品を開発する」などの目標達成ができること、「健全性」とは「コミュニケーションがきちんと取れている」「助け合える」など明るくイキイキ元気があること、「継続性」とはたとえリーダーが替わっても、あるいは先輩が卒業しても、新しいメンバーが入ってきても、良い状態を自分たちで継続できることです。

 3つすべてが整っている組織なら、おそらく誰でも去りがたく感じるでしょう。ただし、こうした理想的な状態にお目にかかることはなかなかありません。なぜなら組織には常に新しい問題・課題が生じて、解決の糸口が見つからない「モヤモヤ」が発生するからです。このように組織はいつも不安定な状態にある、と考えるのが組織開発です。

 つまり、転職先の組織にも必ず「モヤモヤ」はあるということを覚悟する必要があるわけです。したがって「残るべきか、去るべきか」は転職して初めてわかるということです。

「ざんねんな会社」がいますぐ変えるべき、とある習慣とは?

 これでは、身も蓋もないので、もうひとつ「キャリアと組織開発」という視点でこの問題を考えてみます。今の職場に見切りをつけるということは、達成感がない、自己効力感を感じられない、または成長実感を得られない、など仕事に対するマイナスな気持ちが影響していると考えられます。

 先輩からいろいろ教わって一つひとつ経験を積み重ねて自信をつけていく、いわゆる日本型のキャリア形成では職場のOJTがとても重要です。離職傾向が高まる職場では、それが機能しなくなっていると推測できます。なぜOJTがうまく機能しないのか、それは先輩も上司も退職を考えている人の「モヤモヤ」に気づけないからです。いじわるな先輩やパワハラ上司だからではありません。良心的な人たちが集まった組織でも普通に起きる現象です。

 仕事が複雑になっていることや常にパソコンと向き合っていることも要因ですが、仕事に関するコミュニケーション不足が一番大きな原因です。業務の中の小さな困りごとを相談する機会が圧倒的に不足しているのです。

 課員全員が集まって月曜日に朝会をする組織は多いでしょう。そのとき「先週の進捗報告」を一人ひとりが順番に行うというのもよくありそうです。しかしここに大きな落とし穴があるのです。先週の仕事をきれいに終わらせた人は自信ありげに進捗を報告します。本人にその気がなくても上手くいかなかった人にはそう聞こえます。一方、予定どおりに終わらなかった人は言い訳を始めます。週の最初にこんなミーティングをしていませんか。

 これを組織開発的に改善するのは簡単です。テーマを「進捗報告」ではなく「今週の予定」に変えるだけです。変えられない過去ではなく、サポート可能な未来の計画共有へと切りかえるのです。後輩の予定を聞いた先輩が「それは一人でできそう?」と尋ねたり、「情報は十分に集まってるの?」というように上司が支援的な確認をするようになるのです。

 OJTが機能する職場風土はこうして育てていきます。このように、良い組織状態を計画的につくるアプローチが「組織開発」です。転職は個人のリスクがとても大きいです。それを考える前に今の職場をもう少し居心地よくすることに目を向けるのはいかがでしょうか。