給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載の特別編として、著者の小泉氏による書き下ろし記事の第9回をお届けする。今後の資産形成の参考にしていただきたい。

【新NISAを100%活かす投資術 第9回】J-REIT(不動産投資信託)よりも、個別の不動産株への投資が有望な理由Photo: Adobe Stock

J-REITは魅力的だが、
不動産株はさらに魅力的

 前回記事で述べたように、J-REIT(不動産投資信託)は、不動産投資のリスクと手間を大きく省きつつ、平均的利回り4%超、という優れた金融商品だ。しかも、1口あたり純資産に対するREIT価格を示すNAV倍率(株式のPBRに相当する指標)は1倍を割れている。つまり、実際に組み込まれている不動産の時価よりも安い価格になっているのだ。

 しかし、J-REITよりさらに割安になっているのが不動産株だ。老舗の大手不動産会社の実質PBR(株価純資産倍率)は、軒並み1倍を大きく割り込んでいる状況だ。

 PBRというのは、株価を1株当たりの純資産で割って計算した指標だ。この計算で使う1株あたり純資産というのは、貸借対照表に出ている簿価である。

 それに対して実質PBRというのは、不動産の含み益(時価が簿価を超える部分)を加えて計算したものであり、より実態を示したものだ。老舗不動産会社の保有不動産は、昔取得して簿価が低いものが多いので、実態を見るには実質PBRが参考になる。

土地の含み益も考慮した
実質PBRを見る

 8月17日の日経新聞に掲載されていたデータによると、主要な不動産会社、あるいは不動産業を営む会社の実質PBRは、以下のようになっている。

 三菱地所 0.4倍
 住友不動産 0.4倍
 三井不動産 0.5倍
 三井倉庫 0.6倍
 平和不動産 0.7倍
 JR東日本 0.8倍

 不動産の含み益は会社によってだが、有価証券報告書から探ることができる。「賃貸等不動産関係」という項目を立てて、その中で貸借対照表上の金額と時価を記載している場合、その差額が「不動産の含み益」と考えられる。

超優良物件を豊富に持つ
老舗不動産会社や鉄道会社

 三菱地所は「丸の内の大家さん」と呼ばれるように、日本で最高級の立地である千代田区丸の内一体の不動産を所有している。その他にも、都内各所の優良物件を多数所有している。それでいて、実質PBRは0.4倍という安さだ。

 その他の老舗の大手不動産会社も、好立地の優良物件を多数保有しながら、実質PBRは軒並み1倍を大きく割り込んでいる。

 JR東日本は不動産会社ではないが、大手不動産会社に負けないくらい超優良物件を多数抱えている。それは、超駅近物件、いや、駅そのものを多数保有している。いうまでもなく、駅近物件は非常に価値が高い。そして、このJR東日本も、実質PBRは1倍を割り込んでいる。

「益利回り」は、
本来の配当能力を考えた利回り

 そして、PER(株価収益率)を見ると、大手不動産会社は軒並み10~15倍だ。先ほどの表には出ていないが、野村不動産も実質PBRが1倍を大きく下回りPERも10倍前後となっている。

 PERというのは、株価を1株当たり利益で割った倍率だ。たとえば、住友不動産の場合、現在、2023年3月期の予想1株あたり利益は369円、1株あたりの配当は59円、株価は3796円(いずれも2023年10月4日時点でのデータ)だ。

 株価3796円を予想1株当たり株益369円で割って、PERは約10倍。
 配当利回りは、59円を3796円で割って、1.6%となる。

 配当利回りだけ見ると、J-REITに劣っているように見える。

 しかし、配当を支払う元となっている1株あたり利益を株価で割って計算する益利回りは、約10%もある。

 1株あたり利益というのは、正確には、1株当たり純利益だ。純利益というのは、経費や税金を差し引いて最終的に残った利益であり、本来は株主に配当するべき金額だ。つまり、益利回りとは本来の配当能力から利回りを計算したものと言える。

 多くの企業は純利益の多くを内部留保している。内部留保した分、成長のための投資にお金を回し、その分、将来の収益や配当は高まる可能性がある。

 また、内部留保して積み上げた金額は、今後配当することも可能だ。つまり、純利益はすべて配当原資と考えられるのだ。

 特に、現在は、投資家だけでなく、国や証券取引所から資本効率の向上を強く求められる時代になり、内部留保を配当に回す動きも強まってきているので、今後配当は増えていく傾向にあると考えられる。

 それに対して、J-REITは毎期稼いでいる純利益のほとんど全てを配当している。それがJ-REITの大きな特長であるのだが、配当を増やす余地はほとんどない。それに比べて大手不動産会社は、今支払われている配当の何倍もの配当原資を毎年生み出している。

 住友不動産の例でいうと、実際に配当している金額の6倍も純利益を稼いでおり、それだけ将来配当を引き上げる余地が大きく残されているということになる。

優秀な人材の存在も、
優良株への投資の大きな魅力の1つ

 以上のように、目先的に支払われる配当だけに着目すると、不動産株よりJ-REITの方が有利だ。しかし、実質PBR、配当原資などまで視野に入れると、圧倒的に不動産株の方が割安に思われる。

 付け加えると、大手不動産会社には優秀な人材も多く揃っている。そして、その優秀な人材の多くは、「社会を良くして、会社を発展させよう」として日々努力している。株に投資する魅力は、それが人への投資でもあるという点だ。

 もちろん、マイナスの資産としか言えない人材もいるだろうが、長年収益を伸ばし、資産を積み上げてきたような会社には優秀なノウハウと人材が揃っているはずだ。そうしたことも考えると、株への投資はさらに魅力的に感じられる。

(※本稿は、書き下ろし記事です)

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/