給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載の特別編として、著者の小泉氏による書き下ろし記事の第5回をお届けする。今後の資産形成の参考にしていただきたい。

【新NISAを100%活かす投資術 第5回】インド株が長期的に高成長を続ける6つの理由Photo: Adobe Stock

4年後には日本、ドイツを抜いて
GDP3位に浮上するインド

 前回の記事で紹介したように、ゴールドマン・サックスの2020年から2050年までの長期展望によると、GDPの成長倍率は米国1・7倍、ユーロ1・7倍、中国2・7倍、インド7・9倍、インドネシア5・7倍と予想されている。

 実際、インドのGDPは年率7%前後の高成長が続いている

 GDPの国別ランキングでは2022年にイギリスを抜いて5位に浮上し、2027年までにはドイツと日本も抜いて3位に浮上する情勢だ。

 インドのこうした高成長は長期的に続くと思われるが、その理由として次の6点が挙げられる。

 ①人口増加
 ②一人当たりGDPの拡大余地
 ③教育水準の高さ
 ④優秀な人材の多さ
 ⑤IT技術・インフラの水準の高さ
 ⑥政府の強力な成長戦略

 インドは2023年に中国を抜いて人口世界一になることが確実であり、労働人口も増え続けている。人口の多さや増加傾向はそれだけで経済成長の大きな要因になる。

 一人当たりGDPは急拡大中だが、2023年現在はまだ2600ドル程度であり、日本とは13倍、先進国の平均的な水準と比べて20倍程度の差がある。それだけ成長余地が大きいと言える。

 教育に関しては、初等教育から実用的な英語が教えられ、インド人のほぼ全員が英語を喋れる。これはあらゆるビジネス分野で有利な要件だ。

 また、数学の教育水準の高さも有名であり、最近は「インド式計算法」は日本でも人気になっている。

 そうした教育水準の高さを背景に国際的に優秀IT人材を多く輩出している。マイクロソフトCEO、グーグルCEOがインド出身者であることは有名だが、インド人の人材は世界のIT業界を席巻している。

 インド人は起業意欲も強く、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)の数も急増して、その数は2023年現在、米国、中国に次いで世界3位となっている。インド国外でインド人が企業したユニコーン企業も急増しており、それも合わせるとその数は倍増する。

デジタル・インディアの進展

 インドは今や、豊富なIT人材や有力なIT企業を多数抱え、ITインフラも整備されたIT先進国となっている。インドでIT化が進んだのは2014年からデジタル・インディア政策が強力に推進されてきたことも要因になっている。

 具体的に、デジタル・インディアでは、以下のことが推進された。

 3つの重点領域
①全市民に対するデジタル・インフラの構築
②電子行政サービスのオンデマンド化
③デジタル化による市民のエンパワーメント(デジタル教育の推進など)

 9つの柱
①ブロードバンド整備
②ユニバーサル・アクセスに向けたモバイル・コネクティビティ
③公衆インターネット・アクセス拠点の整備
④電子政府
⑤サービスの電子的提供
⑥オープン・データ・プラットフォーム及び政府のソーシャルメディア活用
⑦国内での電子機器製造
⑧ICT関連産業の雇用創出
⑨全大学におけるWi-Fi構築

 これらの政策を推進して9年経過し、インドのデジタル化は大きく進展した。たとえば、インド版マイナンバーカード「アーダール」が9割以上の国民に行きわたり、それをベースにして金融、医療、行政などのサービスのデジタル化が大幅に進展した。

 そして、ビジネス環境が大きく改善したことで、スタートアップ企業、特にユニコーン企業が急増していく流れを作った。

大型インフラ投資計画の推進で
さらに経済成長へ

 インドでは、かつて電力設備が弱いなどインフラの不安があった。しかし、この点でもインドは急速かつ大幅に改善方向に動き続けている。

 2021年には大型インフラ投資計画「ガティ・シャクティ」が打ち出され、2022年からインフラの予算額が大幅に増額された。これによってインドは、交通、IT、電気自動車など分野で強力なインフラを構築していくことになる。

 こうした大型インフラ投資は、それ自体が経済成長を押し上げる要因になるが、ビジネス環境が強化されることで長期的な経済成長をより確かなものにしていく要因にもなる。

インド株投資の2つの注意点

 以上のように、長期投資の対象としてはインド株の優位性が大きいように思われる。しかし、注意点もある。

 まず、インド株は現状、やや人気化していて、やや割高になっている可能性がある。収益面からの割高・割安を測るPERという指標を見ると以下のようになっている(2023年7月時点)。

 世界 18倍
 米国 23・6倍
 欧州 13・6倍
 日本 14・6倍
 中国 12・4倍
 インド 23・9倍

 こう見ると、世界平均に比べて、「米国とインドのPERはちょっと高めかなぁ」と思われる状況だ。中国と比べると2倍もの水準になっている。

 長期的な成長性を考えるとこれでも割高とはいえないと思うが、PERが高いと何か悪いニュースが出た時に下落率が大きくなる可能性がある

 長期的に有望でも、短期的には、株価が下落する要因はいろいろと出現してくるだろう。そのたびに、PERの高さが取りざたされて大きく下がる理由になる可能性はある。

 そうしたことも想定して、ある程度時間分散しながら買っていくことも考えたいところだ。できれば、何かのショックなどで大きく下落したところで多めに買いたいところだ。

 もう一つの問題点は投資のコストが高いことだ。

 インド株に対する注目度が上がり、投資信託が増え、手数料も低下傾向にはあるし、今後もさらに低下していくと思われる。しかし、現状は、世界株インデックスや米国株インデックスなどに比べてインド株投信の手数料はかなり高い。

 現状として、インド株投信を選ぶ場合には、「毎年取られる信託報酬は1%以下」を一つの基準にして選びたいところだ。今後、信託報酬が大幅に下がることが望まれる。

(※本稿は、書き下ろし記事です)

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/