日本をアニマルスピリッツで満たすための3つのポイント
――具体的には、大人はどういった教育をしていけばいいと思われますか?
朝倉 僕がよく言っているのは次の3つで。1つは、他人と違うことを全面肯定することです。他の人と違うって素晴らしいよね、と。2つ目は、失敗することを奨励することです。単に許容するだけでなく、成功に向かう道筋として失敗を奨励する。失敗したね、良かったね、と。そして3つ目は、自分の頭で考えること。
もう30年近く前の話になってしまいますが、僕の義務教育時代はどうだったかというと、これと真逆のことを言われていました。皆同じ制服を着て、周囲と同じように振る舞いなさい、と。そこからちょっとでも外れていると、変な人だということで怒られていました。
失敗に関しても、何においてもあらかじめ決められた答えがあって、そこにいかに速くミスなくたどり着けるかが問われていました。もちろん計算など基礎的なことを習得するのは大事ですが、学科を離れた広い活動の中ではもうちょっと「失敗すればいいじゃないか」と背中を押してあげられないものかな、と感じています。
3つ目の「自分の頭で考える」というのは、もう完全に真逆ですよね。考えるな、校則にこう書いてあるんだからこうしなさい、など。最近だと“ブラック校則”が話題になっていますが、「なんでこんな変な校則があるんですか?」と聞いたら、「それは校則だから」ともはや理由になってないことを言われる。
僕は、真っ先にやめるべきは「前にならえ」だと思っているんですけど、これって読んで字のごとく、前の人と同じことをしなさいという意味じゃないですか。こんな呪文を9年間もの義務教育の中で延々言われ続けていたら、そりゃあ「他の人と同じことをしなきゃいけないんだよね」という考えが染みついてしまいますよ。
そんな教育を施されてきた人たちに「アントレプレナーシップ(起業家精神)を持て」とか「イノベーションが大事だ」と言ったところで噛み合うはずがないといつも思います。
――子どもの頃からの教育が大事なのはもちろんだと思うのですが、すでに社会に出ている人たちが、そういった“前にならえ教育”を施されてきた中でアニマルスピリッツを取り戻すには、どういった施策が有効だと考えられますか? たとえば会社で何かそういった仕組みを作るなど……。
朝倉 挑戦の機会を設けるにあたって、予め失敗できる余地を設計することだと思います。何か新しいことに取り組むときに、百発百中を前提としてはいけないと思っています。大事なのは、一定程度の遊びというか余地を設けて、そこでは思う存分チャレンジしなさい、という姿勢だと思うんですよ。
1つでも失敗したらアウト、という強迫観念を抱えている人が多いですから。たしかに交通とか電力のような世の中の生活を支える既に確立したインフラ部分などでは、ミスが許容される余地が極めて少ないのは当然です。
一方で、失敗したところで深刻な悪影響が生じないような領域で「ちょっと新しいことに挑戦してみよう」というときまで、そういった絶対にミスは許されない世界と同じ規範で評価されてしまったら、そりゃ何もできなくなるのは当たり前のことだと思うんです。
ソフトウェア開発ではよく、「サンドボックス」、つまり砂場という言い方をするのですが、本番環境とは切り離してサンドボックスを設け、この中では失敗が起こってもいいよね、と試行する場を設けるんです。
同じように企業の中でも、この範囲で失敗しても別に会社はピクリともしないよね、というゆとりの場を設定して、その中ではあまり細かいことを言わずに「やってみたら?」と挑戦の機会を渡してみる。これができれば本当はいいんでしょう。
ただ、実際にそういった動きができる大企業は現実には少ないと見受けます。だからこそ、大企業は主に完成したシステムの安定運用を担うかたわらで、スタートアップが社会実験のコマとして新たな領域に挑戦する役割を担うといった住み分けになっているのかな、と感じています。
徳成 そのとおりで、今、日本の大企業は、先ほど申し上げたようにグローバル投資家たちから「アニマルスピリッツはないのか」と問われ、投資対象にすらならず素通りされている。さらに東証からは「日本の上場企業の半数以上はPBRを下回っていますね」と言われる。
新しいことをやっていかないと衰退していくだけなので、会社の中でそういったサンドボックスを作り、資源の何割かは割り振って、新しいことにチャレンジしていく必要がありますし、それはどこの会社もやろうとしていると思います。