大企業でも新しいことにチャレンジできる
「サンドボックス」とは

――具体的にはどのようなサンドボックスを設けているのでしょう?

徳成 やり方にはいくつかありまして。僕がCFOを務めているニコンの例で言いますと、デジタルカメラや半導体露光装置の会社ですから、モノを製造する、というハードウエアのビジネスが主軸なんですが、コンテンツやソリューションビジネスに展開しようとしています。
映像ビジネスで言えば、デジタルカメラを作るだけでなく、それで撮った高精細な静止画や動画を組み合わせたり画像の内容を分析したりすることで、新しい価値を生んだり、社会課題を解決したりしようという取り組みですね。

 たとえば、巨大な液晶パネルに背景画像を映して人がその前で演技したり演奏したりするバーチャルプロダクションや360度の3Dボリュメトリック動画が撮れる撮影スタジオを作り、ミュージックビデオや映画、CM撮影者に提供するサービスを始めました。
そのために新会社、ニコン・クリエイツという会社を作ったのですが、僕は親会社のCFOとして、「いくらまでなら損してもいいよ」とストップロスを決めて、そこまでは自由に経営させています。

 まあ、サンドボックスとはいっても結構な額を投入しているので勇気を要するのですが、でもそうするといろんなアイデアが挙がってくるんですよ。

 たとえば、「画像データからのAIによる骨格分析」というキーワードがあるとすると、サッカーやバトミントンなどスポーツ選手の動画をAI分析することで、「上手い下手」とは何かを具体化してユース選手の育成に生かそうとか、ものづくりの現場で、ネジを締めるのが上手い人と下手な人の違いをAI分析してミスをなくそうとか、いろんなアイデアが出てきています。

 まだビジネスになっていないものも多いんですけど、これまでだとそういう儲かるかどうかわからないものって、すべてボツになっていた。それを私がCFOとして後ろ盾となって、「この金額までは損していいから」とやっているわけです。

朝倉 それは素晴らしい取り組みですね。

徳成 そうやって、10のうち1とか2は違うことをやる、ということを意図的にやっていかないと、人間はどうしてもルーティンに流れてしまいますから。そのほうがラクですからね。それは、組織レベルでも個人でも同じです。ですから、スタートアップ企業に負けないよう、大企業もトライ&エラー的なことをやっていかなければと、奮闘している真っ最中です。