猛烈仕事人間だった主人公は、「忙しい」を理由にたくさんの人間関係を捨ててきた。学生時代の友人の娘が亡くなったことを知りながら、お悔みの手紙一通出さなかった。よき理解者だった叔母が行方知れずになっても探そうともしなかった。卒業旅行の途中で「帰国したらすぐに返すから」といって友だちからお金を借りた。でも返さなかった。そうして旅行の思い出を語り合えるかけがえのない友だちを失った――。
どうして人を大切にできなかったのだろう。もう関係修復は不可能なのだろうか。
新刊『僕は人生の宿題を果たす旅に出た』(リー・クラヴィッツ著)は、リストラされたのを機に、捨ててきた人間関係を取り戻そうと決めた男の物語である。関係を修復したい10人を選び、職探しをする代わりに1年かけて、再会を果たそうと決意する。
はたして彼は、大切な人との絆を結び直すことに成功するのだろうか。
前回に続き、『僕は人生の宿題を果たす旅に出た』のなかから、一部を掲載する。ケニアで少年に案内されて訪れた図書館には、本がほとんどなかった。そこで、僕は「この部屋を本でいっぱいにしてあげる」と約束するが…。

少年との約束

 「いい図書館だね」僕は言った。
 「だが、もっとたくさん本があったほうがいい。ニューヨークへ戻ったら、スポーツや科学や有名な人たちについての本を送ってあげる。きみの英語が上達するように、百科事典や辞書や小説やおもしろい雑誌を図書館に寄付しよう」

 僕は少年が笑顔で、ありがとう、と言うのを期待した。ところが、彼は、僕の言葉に当惑したように、肩をすくめた。
 「みんなそう言うんだ」少年は気まずそうに答えた。
 「本当だよ」僕は言った。「この部屋を本でいっぱいにしてあげよう」

 そのときは、本気でそうしたいと思っていたのだ。
 僕は大きな出版社で働いていたし、何百万人もの学生が読む雑誌を編集していた。そうした経験をもとに、ケーブルテレビ局シースパンで学生のタウンミーティングを開催したり、ジャクソン・ブラウンの協力で作詞コンテストを行ったり、NBCニュースで最新の出来事のビデオを作ったり、アメリカの生徒たちがコンピュータを使って犬ぞりで北極を横断するウィル・スティガーとチャットする企画を立てたりした。

 こうした成功例があるために、自分ならカクマの図書室を本でいっぱいにすることができると思った。
 計画さえ立てた。勤めている会社に本を1000冊寄付するように頼もう。それを慈善事業に関心のある航空会社にナイロビまで運んでもらえれば、UNHCRが本を受け取り、カクマまで移送してくれるはずだ。