ましてやクマは人間や家畜に致命的な危害を加える生き物である。北海道で、牛66頭を襲ったヒグマ「OSO18」が7月に駆除されたが、こちらも駆除したハンターに抗議が殺到した。北海道が、ヒグマの捕獲に従事するハンターの役割や行動に理解を求める投稿をしたことは記憶に新しい。

「クマの駆除に苦情殺到」の裏に
異質な二つの法律のねじれ

「クマとの接触は、人命や農作物への被害があるといい、今年は県内で過去最高のペースである590頭が駆除されているという(9月19日現在)。美郷町のクマも駆除の対象となったが『人命を守るためにご理解いただければ』(県自然保護課の担当者)」(弁護士ドットコムニュース10月5日)と、秋田県の担当者が述べている。

 先ほど紹介した美味しんぼの回では、米国の食文化に鯨食がないことも、米国人が鯨食に拒絶反応を示す理由の一つだと山岡は論じていた。クジラに対する米国人の反応と同じようなことが、日本国内でクマに対しても起きているということだろう。前出の野澤弁護士は以下のように解説する。

「動物の法規制は、『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法、※1)』と『動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法、※2)』の法背景が異なる2本立てで成り立っています」

※1:1873年制定の鳥獣猟規則が法起源、かつては農林水産省林野庁が所轄
※2:議員立法で1973年制定、かつては総理府環境庁が所轄

「現在はどちらも環境省が主に所轄し、罰則も細かく規定されているのですが、前者が『狩猟』を前提とした野生動物、後者が『愛護』を前提とした愛玩動物(ペット)を主に想定しています。ざっくりとしたイメージで捉えるなら、前者が『昔からの慣習、地方』、後者が『現代的な価値観、都会』といったところです」

「今回のケースで苦情を言っている人の立場から考えてみれば、『後からできた(都会の)理屈』であり、それによって『なんで地域の昔からのやり方が否定されてしまうの』といったところにねじれが生じています。地域ギャップ・年齢ギャップのいずれも大きい分野です」

「現時点での一般的な落ち着きどころは、『民家が近いエリアでの殺傷能力が高いクマなどの駆除はやむを得ない』といったところであろうと思われ、2本立て規制の統合化は検討されてしかるべきです。しかし、地方行政レベル、業界団体レベルそれぞれで問題を抱えており、なかなか進みません」

「地方行政レベル」では保健所や福祉関係部局、環境関係部局などが地域ごとにバラバラに対応しているそうだ。一方、「業界団体レベル」は駆除・狩猟系の団体や動物保護系の団体、ペット業者関連の団体などが挙げられるが、動物を扱っている点では共通しているものの肌が合わないという。