工事のスケジュールは
27年3月末で変わりなし

 そんな恵まれた条件で進む工事だが、気になるのはスケジュールだ。ご存じの通り、リニア中央新幹線をめぐっては静岡県が水資源や環境への影響を懸念し着工を認めておらず、JR東海も2027年の開業は困難と認めている。そんな状況の中、工事はどのように進められているのか。

 JR東海に聞くと、工事にあたって神奈川県、相模原市との協定が締結されているため、契約期間である2027年3月31日に向けて計画通り進めているという。品川駅、名古屋駅など長期にわたる複雑で難易度の高い工事については、「余裕のない厳しい工程ですが、引き続き精力的に工事を進めています」と、ちょっと含みのある回答だった。

 とはいえ鉄道は線であり、一部でも途切れれば運行できない。静岡県の許可が下りない限り静岡工区の着工はできず、他の工区すべてが完成しても「建設中」のままである。物価高や人件費高騰、人手不足をふまえれば、無理をして工事を急がなくてもよいように思える。

 それでもJR東海は、民間企業として健全経営と安定配当を維持するため、不測の事態が発生した場合は工事のペースを調整(実際、リーマンショックを受けて開業目標を2025年から2027年に延期したことがある)することもあると前置きした上で、「可能な限り早期の開業を目指すことには変わりないため、既に着手している静岡工区以外の各地の土木を中心とする工事は、引き続き、早期の完成を目指してペースダウンすることなく進めていきます」と手を緩めない方針だ。

 都市部駅間の大深度シールドトンネル建設工事は、2021年に調査掘進(試掘)を開始したが、すぐにシールドトンネルが損傷するトラブルが発生し、本掘進の着手が遅れている。原因は既に特定されており、シールドマシンの改良と工事方法の変更を行った上で調査掘進を再開し、間もなく本掘削が始まる見込みだ。

 トンネル工事というと途方もない時間がかかるというイメージを持たれがちだが、品川駅~神奈川県新駅間約38キロを一基のシールドマシンで掘り進むわけではない。同区間には9つの立坑が設けられ、開業後は非常口として使用するが、立坑の一部からもシールドマシンを発進させることで、計7基(1基当たり最小1.0キロ、最大8.8キロ)で分担して建設する。

 シールド工法のピークはむしろシールドマシンを発進させる以前にある。発進基地となる駅や立坑ができてしまえば、あとは地盤の大きな見込み違いなどがなければ粛々と工事は進んでいく。シールドマシンはおよそ1日当たり20メートル、1カ月で400メートルほど進むので、8.8キロの区間は2年ほどで開通する計算だ。

 トンネルは早ければ2025年にもつながるが、普通の鉄道とは異なり、ガイドウェイと走行用、浮上用コイルなど特殊な設備を設置することを考えれば、足踏みした2年の影響は小さなものではない。だが地下鉄など都市鉄道のトンネルも開業の1年半~2年前程度に開通するのが一般的であり、ガイドウェイの効率的な敷設手法が確立されれば不可能ではない、かもしれない。この辺りがどうなるかでJR東海の「本気度」が測れそうだ。

 となると、やはりJR東海にとって最大の「障害」は静岡工区となる。同社は2020年6月に、約7年の工期を見込む静岡工区を2027年に開業させるには現時点がリミットとの見解を示していた。このまま着工が後ろ倒しになれば、2027年に静岡工区以外が完成するも、路線としてつながるのは2030年代前半ということにもなりかねない。

 リニア中央新幹線(品川駅~名古屋駅間)の建設費は約7兆円。うち3兆円を財政投融資から借り入れており、2046年から2056年にかけて返済する計算だ。開業が遅れれば収入がないにもかかわらず返済と金利負担に追われることになるが、リニア関係の設備投資が減少すればキャッシュフローに余裕が生じる上、資金の4割は当面返済の必要がないとなれば、現時点で工期延長というカードを切る必要は無いとの判断だろう。

 ただ、財投3兆円が単にJR東海の経営下支えで終わってしまっては、名古屋~新大阪間着工前倒のための長期低金利融資という本来の意義が問われることになる。静岡問題を「不測の事態」とみなし、全体的なスケジュールの再調整に乗り出す日も遠くないのかもしれない。