糖尿病患者のほとんどは、病気が見つかって最初に薬を処方した際、「絶対それ飲まなきゃいけないんですか」と質問するという。できれば薬は飲みたくないという意識があるようだ。ところが、これが間違っている。

「治療には二通りのパターンがあります。一つは、40代、50代と薬を使わないまま過ごして、60代になって血糖値がかなり高くなってから薬を使い始めるパターン。もう一つは、40代の、血糖値がそれほど高くない段階で薬を飲んで、その後は使わないようにするパターンです。どっちがいいかというと、明らかに、最初に使ったほうがいいのです」

 なぜなら60代、70代になると、大抵食欲が落ち、若い頃ほどには食べなくなる。血糖値は上がりにくくなるわけだが、年齢的に動脈硬化も出てくるため、合併症である心血管の疾患リスクは上がりこそすれ、低くはならない。

「皆さん、健康に気を付けるようになり、頑張り始めます。でも薬というものは、若い頃のほうがその病態からも明らかに効果が高い。しかも、糖尿病は無症状のまま進行する病気なので、薬を飲まなくても困らない。年を取って合併症が出てから、最後の手段でインスリンを打って、『インスリンを使ってから悪化した』と言う人がいますが、見当違いです。単に焼け石に水だっただけ」

 ゆえに坂本教授は、「病気になりたての40代から投資だと思って薬を使い、血糖値をしっかりコントロールする。働き盛りの年代は会食などの付き合いも多いため、薬の使用が功を奏す可能性は高い。そうして歳を重ね、病気がよくなってきたら少しずつクスリを減らしたり、必要最小限の薬だけにしたりするという方針で治療したほうが、将来的にはいい」と勧めている。

糖尿病は本当の一病息災時代
を迎えている

「糖尿病の患者さんでも、心筋梗塞や脳梗塞を一回でも起こした患者さんは、非常に治療に積極的で、『どんな高い薬でも処方してください』といいます。でもそこからではもう遅い。世界で見ると、糖尿病治療の8割は、透析、心筋梗塞、脳梗塞などの薬代に使われていて、初期投資的な薬剤治療に使われているのはわずか8%ぐらいです」

 GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬といった優れた薬が登場した現在、全体の8割までは行かなくとも、初期投資の部分を充実させ、合併症を予防しきって、元気に天寿をまっとうする、本当の一病息災の時代が到来している。

(監修/国際医療福祉大学 医学部 教授 坂本昌也、取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美)