減税よりも給付金の方が
即効性とシンプルさでは勝る

 今回の政府案の骨子は「税金を多く払っている人は最大で4万円×人数分を減税。税金を払っていない人には7万円×人数分を給付」です。政府の試算では8600万人が減税の対象となり、1500万世帯が給付金の対象になります。

 問題は、そのどちらにも当てはまらない人です。税金を払っているけれども払っている税金が家族1人当たり4万円よりも少ない人が該当します。たとえば年収400万円の4人家族はそうなるのですが、そういった隙間の層が900万人ほど存在します。

 このうち国税を払っていなくて住民税だけ払っている層が500万人いるのでそこを給付金の対象にする案があって、その案ならば隙間の層は400万人にまで減ります。

 物価高で一番苦しい層が救えないのは、政策上では問題です。政府もその問題は理解していて、この400万人の隙間層についても何らかの給付金など支援策を年末に固めたいとしています。「隙間の層に一律10万円給付を検討」などの新情報もありますが、その制度設計が複雑になることが懸念されています。

 さて、冒頭でも取り上げたように、今回の政府案について素朴な疑問が浮かびます。なぜもっと簡単に一律4万円の給付金にしなかったのでしょうか。

 コロナ禍では国民に一律10万円の給付が行われました。市区町村が住民台帳に載っている世帯主向けに給付金の申請書を送り、それを世帯主は郵送かオンラインで申請すれば口座に家族1人当たり10万円が振り込まれました。このときはDV被害者など世帯主とは別に暮らしている家族への救済策も用意されました。

 12.7兆円を給付する事務費は約1460億円と1%ほどの経費がかかりましたが、事務費がかかるのは今回の減税でも似たようなレベルでしょう。

 同じ仕組みでやれば、隙間の層など関係なく一律4万円が給付されますし、所得が低くて所得税も住民税も課税されていない人には今年の春同様に追加で3万円の給付金を出せば合計で7万円の給付になります。何より、給付金なら年明け早々に実施することも可能です。国民が物価高で苦しんでいるのですから、来年6月まで時間がかかる減税にするよりも給付金の方が即効性があります。なぜ、そのようにシンプルな仕組みを取らないのでしょうか?

 わざわざ制度を複雑にしている理由としてすぐ頭に浮かぶのは選挙です。今の政府案を通せば、自民党・公明党ともに「与党は減税を実現した」と選挙でアピールすることができます。

 ただそれを、「与党は給付金を実現した」というアピールだとダメなのでしょうか? おそらく給付金ではダメだという事情が隠されているのでしょう。さまざまな背景事情から、そのことが推測できます。説明していきましょう。