自分は管理職失格なのではないか。部下に嫌われている気がする……。ときには厳しい指導をしなくてはならない管理職。自信がないのに昇格してしまい、精神的にまいっている人も多いのではないだろうか。
そんなときに試してほしいのが、『悪いのは、あなたじゃない』に書かれている「心の傷」を癒す方法だ。著者は、SNSで大人気の心理カウンセラー・Pocheさん。人間関係、親子問題、アダルトチルドレン(AC)を専門とするPocheさんのもとには、日々さまざまな人たちからの切実な悩める声が寄せられているという。
本書では、実際のカウンセリング事例の数々をもとに、実は意外なところに存在していた悩みの原因をつきとめ、解決へと導いていくプロセスが解説されている。本連載では、そんな本書から、必要以上に自分を責めてしまうクセをほぐすヒントを学ぶ。今回のテーマは、「部下に嫌われているのでは……と不安になったときの対処法」だ。(構成:川代紗生)

悪いのは、あなたじゃないPhoto: Adobe Stock

「どうせこう思っているんだろうな……」と思い込んでしまう理由

 会社に行きたくない。どうせ、うるさい管理職だとみんなで悪口を言ってるんだろうな……。

 管理職、リーダーとして、責任のある立場になると、ときには厳しい態度を取らなくてはいけない。部下がミスをすればその原因を特定し、注意する。

 ピリッとした緊張感がないとチームの空気が緩み、それが次のミスにつながることもある。

 管理職である自分が率先して指摘しなければならず、ストレスが溜まってしまうこともあるだろう。

 これは、リーダー経験のある人であれば、誰しも一度は抱えたことがある悩みではないだろうか。

「まわりの目が気にならない人になりたい」「どうしたら、”他人にどう思われようが私は私!”と自信を持てるようになるの?」と、もやもやする人も多いはずだ。

 人間関係、親子問題、アダルトチルドレン(AC)専門のカウンセラー・Pocheさんのもとには、生きづらさを抱える人々から、さまざまな悩みが届く。

 中には、直接言われてもいないのに、「どうせこう思っているんだろうな……」とネガティブに考えてしまう人もいるという。

厄介なのは、いったん「こう思っているんだろうな」というネガティブな想像をしてしまうと、相手の一挙一動がその想像とくっついてしまうこと。そうしているうちに、ネガティブな想像が補強されていきます。最初は単なる想像だったものが、あたかも事実であるかのように自分の中で認識されてしまい、「あの人はこう思っている!」と強く思い込むようになってしまうのです。(P.105)

「管理職失格」のレッテルを自分で貼ってしまう人の特徴

 脳には「確証バイアス」というものがある。一度強く先入観を持つと、その思い込みを補強するような情報ばかりを集めようとする認知バイアスの一種だ。

 たとえば私は以前、10人ほどのチームを取りまとめるリーダー的ポジションになったことがある。

 上に指示された目標は前年よりかなり高く、人手不足でメンバーたちにもストレスが溜まっている様子で、私は、このままでは目標をクリアできないのではないかと焦っていた。

 そんなあるとき、部下たちが、少人数のメッセージチャットで仕事の愚痴を言い合っている、という噂を耳にしたのだ。

 それを知った瞬間、「個人チャットで何を話しているんだろう」「自分の悪口を言っているに違いない」と、嫌な妄想が脳内へ一気に広がった。

 実際に聞いたわけでもないのに、「また今日も残業か」「さっきの指示、おかしいよね」「仕事できない上司だ」など、具体的な悪口が次々に浮かんできた。

 すると、自分の勝手な妄想なのに、本当に言われたような気分になってくる。

 その上、職場でメンバーの声が小さかった、返信がちょっと遅れたというだけで「ほら、やっぱり私が嫌いなんだ」と思い込むようになっていったのだ。

 本当に悪口を言われていたのかどうかは定かではない。冷静に振り返ってみると、人間関係が壊滅的に悪くなったわけでもなかった。仕事も滞りなく進んだ。繁忙期だったから、チームの空気が全体的にピリピリしていただけだった可能性もじゅうぶんにある。

 さて、なぜこのような思い込みにとらわれてしまうのだろう。

 本書によると、こういう悩みがある人は、自分で自分にレッテルを貼ってしまっている場合が多いという。

 私のケースで言えば、「管理職失格」「この人について行きたいと思えない」「もっと上司にふさわしい人がいる」などのレッテルを自分で貼ってしまっていた。

 過去に仕事で大失敗し、叱責された経験から、すっかり自信をなくしてしまっていたのだ。

 他人から言われた何気ないひとことや、子どもの頃の経験など、さまざまな出来事がきっかけで、人は自分自身に悪いレッテルを貼る。そして、そのレッテルの裏付けとなるような証拠を必死に探してしまうのだ。

部下の評価が気になるときに試したい1つの口ぐせ

 ならば、どうしたらいいのか。Pocheさんは、一つの解決策を提案している。

大切なのは、「どうせこう思っているんだろうな」という思いが出てきた時に、無理に否定したり肯定したりしないこと。「どうせこう思っている」というのは、あくまで想像でしかないのですが、本人にとっては限りなく真実に近いものだからです。(P.110)

 おすすめは、ネガティブなイメージが頭に浮かんだとき、語尾に「……と私は思った」と付け加えてみることだそうだ。

・どうせ部下たちは管理職失格だと思っているんだろうな。……と私は思った。
・どうせ信頼できない上司だと思っているんだろうな。……と私は思った。

 という具合だ。

 語尾にこの言葉を付け加えるだけで、「この思い込みは事実ではない。私の想像なのだ」と理解できるようになる。客観的な「事実」と主観的な「想像」を区別して考えられるようになるのだ。

 私も本書で読んでから実際にためしてみたが、「……と私は思った」と声に出して言ってみたり、声を出せない場面では、スマホのメモアプリなどに書いてみたりするのが効果的だと感じた。

 「これは私がそう思っているだけなんだ」と実感することで、冷静さを取り戻すことができる。おまじないのような言葉だ。

 管理職になると、プレイヤー時代にはなかったようなストレスに苦しめられる。「もう耐えられない」「嫌われるのが怖い」と思ったらぜひ一度、本書の心を軽くする方法を試してみてはいかがだろうか。