岸田首相の「新たな経済対策」は
どれも対症療法にすぎない

 岸田首相は「賃上げ」にも取り組む方針だが、自民党政権は安倍晋三内閣期以降、何度取り組んでも賃上げに成功したことがない(第305回・p2)。岸田内閣は「賃上げした企業に対する優遇税制の拡充」などを打ち出しているが、そもそも賃上げを政府の要請で「人為的」に行うのは不自然である。

 本来、賃上げは経済や企業業績が良ければ、半ば自然発生的に起こる。生産性が高く、効率良く利益を生んでいる企業では、人件費に回せるお金も自然と増えるからだ。

 その条件が整わないから、企業は賃上げを実行できず、毎年のように政府が要請する事態を招いてきた。賃上げ問題の本質的な解決には、「ジョブ型雇用」の導入による生産性向上など、抜本的改革が必要だといえる(第339回・p3)。

 岸田首相による「新たな経済対策」には、他にも「国土強靭化」「少子化対策」などが含まれている。しかし正直なところ、これらにも目新しさはあまりない。

「国土強靭化」とは、インフラ整備を含めた「災害対策の強化」などを指す。伝統的な自民党の経済政策である「公共事業」を大規模に行おうというものだ。ただし土木建設などの業界では、少子高齢化で人手不足が慢性化していて、工事が進まない現実がある(第339回・p3)。

 安倍政権は2019年に、単純労働分野での外国人労働者の受け入れを認めたが、その後も土木建設などの業界では人手不足が改善されていない。低い賃金、劣悪な労働条件、人権侵害問題などで、日本が外国人に「出稼ぎ先」として選ばれなくなっているからだ(第333回)。

 政府は国土強靭化に予算をつぎ込む前に、そうした状況を改善するべきではないか。

 さらに、岸田内閣は「異次元の少子化対策」を打ち出し、(1)児童手当を中心とする経済的支援強化、(2)幼児教育や保育サービスの支援拡充、(3)働き方改革の推進――を実行しようとしている(第323回)。
 
 ところが、これらは「既に結婚して子どもがいる人たち」を支援の対象としており、未婚や子どもがいない人たちは対象外だ。「子育て支援策」にすぎず、真の意味での少子化対策ではない。

 真の少子化対策を進めるには、子どもがいない人たちが「産みたい」と思える社会を作る必要がある。現状の対策からは、そのための打ち手が見えてこない。

 要するに、岸田内閣が打ち出した経済対策は、問題を本質的に解決するものではない。目の前で苦しんでいる人をとりあえず救う「対症療法」にすぎない。それでは、一時的な救済はできても「カネが尽きたら、またカネがいる」の繰り返しとなる。

 そもそも、日本政府は多額の借金を抱えている。この繰り返しが続くと、財政赤字はさらに加速してしまう(第163回)。