日本では賃上げを、政府の要請によって「人為的に行われるもの」だと捉えている人が多い印象だ。だが本来、賃上げは経済や企業業績が良ければ、半ば自然発生的に起こるものだ。生産性が高く、効率よく利益を生んでいる企業では、人件費に回せるお金も自然と増えるからだ(そのお金を内部にためこみ、労使交渉が行われている企業もあるが)。

 その原理が、年功序列・終身雇用制によってゆがめられているのだ。つまり、日本の賃上げ問題の本質的な解決には、日本型雇用システムの抜本的改革が必要なのだ。岸田政権はジョブ型雇用への移行を推奨しているものの、日本の雇用慣行が大幅に変わったとは言い難い。今回の賃上げは、そうした雇用慣行の整備にも踏み込んで行われることを期待する。

「国土強靭化」に踏み切る前に
土木建設業の人手不足解消が急務

 さて、次に国土強靭化について考えてみたい。この項目は、インフラ整備を含めた「災害対策の強化」などを指していると思われる。国土強靭化を進めるには、土木建設業など民間の協力が不可欠だ。しかし、こうした業界では少子高齢化によって人手不足が慢性化している。

 特に建設業は深刻である。国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について(令和3年10月15日)」によれば、2020年の建設業の就業者数は492万人で、ピーク時の1997年の685万人と比べて約28%減少。今後も建設業の労働人口は減少し、2025年には約90万人不足すると予測されている。そして現在は、人材確保のために外国人労働者を受け入れざるを得なくなっている。

 振り返れば安倍政権時の2019年に、単純労働分野での外国人労働者の受け入れを認める「改正出入国管理法」が成立した。それまでは医師、弁護士、大学教授など「高度専門人材」に外国人の就労資格を限定してきた。それを「非熟練の単純労働」に広げる、日本の入国管理政策の歴史的な大転換であった(第200回)。

 だが、この制度を導入しても、建設業をはじめとする国内の人手不足は改善されていないのが現実だ。外国の単純労働者にとって、日本は魅力ある働き場所ではないのだろう。

 というのも、実は今、アジアの労働市場では日本の優位性が低下している。中国経済の急激な発展によって、上海など都市部では建設ラッシュで魅力的な仕事が豊富にある。日本の「出稼ぎ先」としての優位性は薄れ、中国人技能実習生の数はピークの半分程度に落ち込んでいる。

 アジア諸国と比べた賃金面の優位性も、昨今の円安で失われた。さらに問題なのは、日本の外国人労働者に対するさまざまな人権侵害が、国際的な批判を浴びていることだ(第333回)。