空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」の人気気象キャスター津田紗矢佳氏の原稿を特別に掲載します。

【「スーパーJチャンネル」人気気象キャスターが教える】「文化の日は晴れの特異日」って本当!? 検証してみました。Photo: Adobe Stock

「特異日」とは?

 11月3日は文化の日です。

 日本の祝日の一つであり、内閣府によると「自由と平和を愛し、文化を進める」日とされています。文化の日は気象的にも少し話題となる日で、「晴れの特異日」と言われてきました。

 特異日とは、その前後の日に比べ統計的に見て特定の天気の現れる割合が多い日のことを指して使われています。

 文化の日は本当に晴れやすいのか、過去の統計をもとに紐解いてみましょう。

【「スーパーJチャンネル」人気気象キャスターが教える】「文化の日は晴れの特異日」って本当!? 検証してみました。2022年の文化の日の気象衛星画像。東京付近には雲がなく、晴れていたことがわかる。(写真:ウェザーマップ)

過去30年間の観測データから検証

 気象庁は、過去30年間(1991年~2020年)の観測データから、主な都市における日ごとの天気出現率を算出しています。

 この天気出現率を使って、東京の「晴れの特異日」を調べてみたいと思います。

 今回は、特定の日とその前後の日との晴れ出現率の差を取り、前日差と後日差を加算したものを、その日の「晴れの特異日のポイント」とする方法を取りました。(例:11月3日の晴れの特異日のポイント=(11月3日の晴れ出現率-11月2日の晴れ出現率)+(11月3日の晴れ出現率-11月4日の晴れ出現率))

 この方法で365日分を計算してみると、最もポイントが高かったのは9月5日でした。晴れの特異日のポイントは、年間で唯一50に達しました。

文化の日は「晴れの特異日」ではなかった

 一方、11月3日のポイントはマイナス13.3で、365日中270番目と高いものではありませんでした。

 文化の日は、データに基づくと「晴れの特異日」とは言えなかったのです。

 実は、9月5日も11月3日も晴れ出現率は56.7%でまったく同じです。ただ、前日や後日との差である”特異日らしさ”を考慮すると、今回軍配が上がったのは9月5日となりました。

【「スーパーJチャンネル」人気気象キャスターが教える】「文化の日は晴れの特異日」って本当!? 検証してみました。東京の晴れの特異日のポイントTOP5。気象庁「東京の天気の出現率」を使用して、筆者が計算の上作成。

「クリスマス・イブ」はよく晴れる

 なお、東京の晴れ出現率だけで見ると、割合が最も多かったのは12月24日のクリスマス・イブです。

 クリスマス・イブの晴れの出現率は93.3%と、10日あれば9日は晴れるという割合でした。

 11月3日の文化の日や9月5日よりも40%近く高いのです。実は、東京を含む関東では、冬になると晴れることが多いです。

 冬になると、日本付近は西に高気圧、東に低気圧の西高東低の気圧配置(いわゆる「冬型」の気圧配置)になることが多く、この気圧配置になると日本海側では雪が降り、太平洋側では晴れやすくなります。

 東京では、クリスマス・イブの前後の日も含めて晴れることが多いため、12月24日の晴れの特異日のポイントは30で上から19番目と、9月5日よりも低くなったと考えられます。

特異日に科学的根拠はない

 天気には季節的、地域的な傾向が確かにあります。秋になると、上空の強い西風である偏西風が次第に南下して日本の上空を吹くようになります。

 この偏西風に乗って、低気圧と高気圧が交互に日本付近を通過するようになるのです。このため、秋は数日の周期で天気が変わることが多いです。

 文化の日も、晴れの特異日ポイントが高い9月5日も、その日に高気圧が日本付近に来れば晴れやすく、低気圧が来れば雨が降りやすいです。

 台風が来れば嵐になることだってあり得ます。その日がどんな天気になるのかは、年ごとによって変わります。

 現在の天気の傾向や天気の出現率が、これから先も同じとは限りません。前後の日と比べて特定の天気が現れやすい「特異日」には、科学的根拠がないのです。

 ビジネスにおいて、初対面の人との会話の入り口で「いい天気ですね」と話題に出すことがあるかと思います。今回のテーマが、その会話を少し広げる手伝いになれば幸いです。

【参考】
気象庁東京管区気象台「東京の天気の出現率」(https://www.data.jma.go.jp/tokyo/shosai/chiiki/tenki/link.html)

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしの内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

津田紗矢佳(つだ・さやか)

気象翻訳者。気象予報士・防災士。
1987年生まれ、山口県出身。上智大学文学部英文学科卒業。大手法律事務所で渉外秘書として勤務したのち、2016年に気象予報士資格を取得。現在はウェザーマップに所属し、テレビ朝日「日曜スーパーJチャンネル」気象キャスター、テレビ朝日気象デスク、あきたいざたんアンバサダーリーダーを務める。Yahoo!天気・災害動画出演中。防災・減災のために、天気や防災をわかりやすく伝える気象の翻訳者として、執筆・講演・出演などの活動を行っている。著書に『天気を知って備える防災雲図鑑』(文溪堂)、『空を見るのが楽しくなる!雲のしくみ』(誠文堂新光社)がある。
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