【違いその2:自動車政策】
政治や行政がストップをかけている

 ちょうど今、東京でモビリティショーが行われています。話題になっているのは日本の自動車メーカーがその地位を下げていることです。

 日本はEV(電気自動車)で出遅れているけれども、やる気を出せば挽回できる。これが定説なのですが、第2集団を引っ張るドイツから見れば、この構図は違ったものに見えています。日本は国全体で、モビリティビジネスの構造変革に失敗しているように見えるのです。

 先進国と発展しない国の差は、イノベーションの量の違いで生まれます。その象徴が自動車だという話です。ジャパンモビリティショーで話題になっているのはEVではなく、もっと個別のイノベーションです。たとえば海外のEVはSDVといってソフトウエアをダウンロードすることで車の性能が上がる車が主流です。

 アメリカのテスラがその先頭を走っていて、2017年発売のモデル3ですでにそのコンセプトを実装していました。中国のEVメーカーにSDVの機能を提供しているのもアメリカのNVIDIAです。このSDV技術が日本車は遅れに遅れていて、トヨタのEVは今から3年後でないとSDV対応の車を発売できない状態です。

 これは一見、トヨタがダメ会社だからに見えるのですが、ドイツの視点で見るとそうではなく、日本が国を挙げてイノベーションをサボタージュしている方が問題です。

 自動車のイノベーションは、世界的に広い分野で進んでいます。たとえば、自動運転の無人タクシーはアメリカと中国ですでに営業を開始しています。日本は実は公道実験はかなり早い段階から始めていました。しかしなぜか規制緩和は行われずに、実験に参加したベンチャー企業は事業撤退してしまいます。

 EVに必要な充電ステーションのインフラも、数は日本の方が先に増えていったのに、便利さや性能ではテスラの方が上で、実際、日本では数が少ないテスラのステーションの方がずっとユーザーに使われています。

 ライドシェアは10年以上前に多くの先進国で実現していますが、日本はつい先日、「検討」を始めた段階です。「個々の自治体の状況に合わせて議論する」などと言っているということは、上から「やれ」と言う気はないわけで、実現するかどうかわかりません。

 ドイツの視点で見ればEVシフトはGX(グリーントランスフォーメーション)と一体なのですが、日本ではそちらの分野でもイノベーションが進まない。風力発電を入札するために1000万円政治家に献金してルールを変えてもらった事例が事件化されましたが、金で行政が動くというのは、ドイツから見れば途上国レベルの恥ずかしい話です。

 日本が一番イノベーションを起こせるはずのモビリティ分野で起きているサボタージュは、日本全体の縮図です。ベンチャーがアクセルを踏もうとしても、既存勢力がストップをかけられるから、国全体でイノベーションが足りずユニコーン企業も育たない。政治や行政がストップをかけるところが、第2集団の先進国と第3集団の日本の違いです。