人を動かすには「論理的な正しさ」「情熱的な訴え」も必要ない。「認知バイアス」によって、私たちは気がつかないうちに、誰かに動かされている。人間が生得的に持っているこの心理的な傾向をビジネスや公共分野に活かそうとする動きはますます活発になっている。認知バイアスを利用した「行動経済学」について理解を深めることは、様々なリスクから自分の身を守るためにも、うまく相手を動かして目的を達成するためにも、非常に重要だ。本連載では、『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』から私たちの生活を取り囲む様々な認知バイアスについて豊富な事例と科学的知見を紹介しながら、有益なアドバイスを提供する。

「自信はあるけど薄っぺらい人」と思われないために、今すぐやるべきことPhoto: Adobe Stock

「たいした知識がない人」ほど自信過剰になりやすい

 ダニング=クルーガー効果(「あるテーマについて少しだけ知識がある人は、自らの専門性を過大に評価しやすい」という認知バイアス)は、社会の様々な場所で見られる。

「もし自分が金融業界の管理職だったら、もっといい仕事ができる」と信じている建設作業員が、気後れすることなくその考えをソーシャルメディアに投稿する。

 自力で自宅のリノベーションができると思い込んでいる企業幹部が、テレビ番組に出演して下手なDIYを披露してしまう。

 ファッションモデルが、たった数時間の調べものをしただけで、現代の医学の大きな問題点がわかったと確信する。

 この効果が面白いのは、そのテーマを学ぶにしたがって、過信の度合いが下がっていくことだ。

知識が増えるにつれ、自分がまだ何も知らなかったことに気づくからだ。

 その結果、「これは常に当てはまることではないかも」「もっと調べないといけないかな」「そこまで断言はできないだろう」と躊躇し始める。

 以前のような自信に満ちた態度は減り、小さな違いが気になって思考が止まったり、言葉に詰まって反論できなくなったりしてしまう。

 そして、知識を持っている人のほうが、たいした知識もないのに自信満々の人たちに道を譲ってしまうことになる。

 だから、トーク番組に出演したテレビドラマの俳優が、付け焼刃の知識で持続可能エネルギーの問題について突然熱く持論を展開することになるのだ。

人間は「自信過剰になりやすい傾向がある」と肝に銘じる

 自己過信の厄介な点は、そういう状況に陥っても、「何かがおかしいぞ」という直感が働きにくいことだ。なにしろ、この過信そのものが直感から生まれているのだから。

 私たちが、マジシャンや詐欺師のトリックに簡単に騙されてしまうのもそのためだ。

「どれだけ素早くカップを動かしても、私にはどこにボールが入っているかはわかるぞ」と感じてしまう。

 また、意外にも高学歴の人ほど詐欺の被害に遭いやすく、インターネット上の実在しない恋人に騙されて大金を送ってしまったりする。

 さらに、ある専門分野について詳しい人は、「自分は他の分野でも人並み以上に賢いはずだ。嘘くらい簡単に見破れる」と思い込んでしまう。

 自己過信に陥らないためには、どんな状況にあっても、「自分は特別だから、ゲームに勝てる」とか「自分の能力があれば巨額の資金を手に入れられる」などと思い込まないよう肝に銘じることだ。

 実は、「人は自分を過信する傾向があるとわかっていると、私たちは大局的に物事を見ることができるようになる。

 怪しいと感じたときは、人に意見を聞いてみよう。たいてい、相手はあなたほど、あなたのことを買いかぶってはいないからだ。

(本記事は『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』から一部を抜粋・改変したものです)