円安に歯止めがかからないのは
日米の経済の実力「潜在成長率」の差が大きいから
年初以降の円相場を振り返ると、1月中旬、1ドル=127円台まで円が買い戻される場面があった。しかしその後、為替レートは再びドル高・円安に振れた。米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げに言及する一方、日銀はマイナス金利政策を継続する姿勢を崩さなかった。
10月後半に進み、日米の2年国債の利回りの格差は拡大し、おおむね5.00パーセントポイント程度で推移した(米2年金利が5.1%前後、わが国2年金利は0.1%程度)。これを反映して一時、ドル買いの勢いは強まり、10月末、約1年ぶりにドル/円は151円台後半に下落した。
しかし、11月3日に発表された米国の雇用統計で非農業部門の雇用者数は予想を下回った。米国の景気は減速しつつあるとの見方が増え、政策金利の予想を反映しやすい米国の2年金利は低下。ドル買い・円売りの勢いは幾分か弱まり、円は対ドルで149円台まで買い戻された。
このようにドル/円の為替レートは相応の値幅を伴って推移している。10月上旬のように、アルゴリズム系のファンドが円の買い戻しを大規模に行い、一時的に円がドルなどに対して反発する可能性もある。
ただ、円が自律的にドルなどに対して上昇する展開は想定しづらい。特に、日米の経済の実力である潜在成長率の差は大きい。FRBは、米国の潜在成長率を1.8%と予想する。10月、米国の失業率は3.9%に上昇したが、過去の水準と比較するとまだ少し労働市場はひっ迫気味である。賃金上昇ペースも鈍化したが、年4%を超える状況が続く。
対照的に、わが国の潜在成長率は低い。日銀の推計では、23年4~6月期の潜在成長率は0.62%。人口減少もあり、GDPの約53%を占める個人消費が伸び悩んだ。設備投資の勢いも強くない。総じて自律的な景気回復は期待しづらい。
短期間で大幅に日米の政策金利の差が縮小することは難しい。為替レートを一定と仮定すると、経済の実力が相対的に高く、金利も相対的に高いドルが円に対して有利な状況は続くだろう。