半導体産業の育成、地方への投資
日本経済の実力回復に不可欠
いずれにせよマイナス金利政策などの異次元緩和は、いつまでも続けられる政策ではない。わが国は徐々に、かつ慎重に、過度な金融緩和から脱却する重要な局面を迎えつつある。この背景には、過去30年程度の間あまり見られなかった良い変化もある。戦略物資として重要性が高まる半導体関連の大型プロジェクトだ。
現在、政府の支援もあって北海道、宮城県、三重県、広島県、長崎県、熊本県などで半導体メーカーが工場を建設し、生産能力を拡張し始めている。日本企業だけでなく米国、韓国、オランダの企業も投資を計画している。これは、わが国が自動車産業に続く成長産業を再び育成するラストチャンスといっても過言ではない。
足元の世界経済を俯瞰的に確認すると、中国経済は不動産バブル崩壊でかなり厳しい。欧州経済も対中輸出の減少、ペントアップ需要の収束、ウクライナ紛争の長期化などによって景気後退への懸念が高まっている。
今後は米国の労働市場の回復ペースが追加的に鈍化し、個人消費が減少する可能性が高まっている。世界経済全体で成長率は下向きで推移するだろう。従来であれば、米中の景気減速によって日本企業の業績への不安が増し、国内需要も弱含みになった。
しかし、今後の展開次第では、そうした下押し圧力を部分的に緩和できるかもしれない。熊本県や北海道などで進行中の大型半導体工場が完成し、最先端・次世代チップの出荷が実現すると、波及的に投資は増えるだろう。そのタイミングで政府が産業政策を強化すれば、わが国の潜在成長率が上昇する可能性も高まる。
そうした展開が現実のものとなれば、円の購買力は幾分か回復し、年初から10月末までのような急速な円安、コストプッシュ由来のインフレ懸念が軽減できるだろう。国を挙げて新産業を育成し円の購買力回復を目指すのは容易ではないが、半導体での大型投資などが、その嚆矢(こうし)となることを期待したい。