2022年度の小中学校における不登校者数が過去最多の29万9048人、小中高校などで判明したいじめ件数も過去最多の68万1948件になったと文科省の調査が発表されました。今、「学校に行かない子どもたち」が、とても増えています。本連載では、20年にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。「不登校」という事象について考えるときに、本人へのケアという個人に着目した視点と、教育環境との相性や教育制度など、個人を苦しめている社会の側に視点をおいた考え方など、幾つかの視点があります。ここでは個人に着目した考え方の一つを本書から紹介します。
「いじめを理由とする転校」は柔軟に認めるべきと文科省は示している
学校や友達とのトラブルで不登校になった場合、「思い切って環境を変えたほうがいいのでは?」と思うこともありますよね。
公立の義務教育は、原則として住民票のある学区域の指定校に通わなければならないという決まりがありますが、保護者が希望し、教育委員会が認めれば、転校することも可能です。特にいじめを理由とする転校については、柔軟に認めるべきだと文科省も示しています。
いじめなど明白な理由があり、「他の学校であれば通える」のならば、まずは通っている学校に相談してみましょう。保護者から相談があると、学校から教育委員会に連絡がいき、教育委員会が認めた場合、様々な手続きを経て「指定学校変更通知書」という許可証が保護者のもとに送られてきます。
また、近接した隣の自治体の学校に通えそうな場合は、2つの自治体の教育委員会間で調整をして、引っ越しをしなくても隣の自治体への転校が許されるケースもあります。その場合は、行政に、お困りの状況を相談してみましょう。
ただ、学校も教育委員会も「子どもの希望でいちいち転校を認めていたら、わがままな子になってしまう」などという理由からか、転校を認めない場合が多い、というのが現実運用面での印象。自治体によっても、判断には差があるようです。
住民票を移すという手もあるが……
私たちが支援した例では、隣の学区にワンルームマンションを借りてそこに住民票を移したり、隣の学区に住む友人宅に住民票を置かせてもらうという形で、「転居した」という体をつくって転校を実現させた方もいました。
ただし、マンションを借りる場合は、不要な出費が増えますし、住民票と現実の住まいが違うと、通学路の安全や防犯、災害発生時など防災上の問題が生じます。
住民票のみの移転は、慎重に検討したほうがよいと思います。
*本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。