【お寺の掲示板120】人生で一番リスクのある「依存症」とは専念寺(大阪) 投稿者:sennenji1597sub [2023年8月8日]

「ひと様に迷惑を掛けないように」と親に言われて育った人は、他人に頼み事をするとき、どうしても躊躇してしまう傾向にあるような気がします。そんな人は、齢を重ねて、世間が狭くなりだしたら、ある依存症に注意しなければいけません。(解説/僧侶 江田智昭)

 きちんと他人に「依存できる」
自立した大人になる

 大阪市平野区にある融通念佛宗の専念寺に、ネコ坊主として有名なご住職がいます。日々、お寺の掲示板を更新している達人の一人です。この言葉は、ダイヤモンド・オンライン『精神科医Tomyが教える1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』に由来しています。

人生で最もリスクを
回避できる方法の一つは、
「特定の人間関係に
ズッポリ依存しないこと」よ。

 今回のテーマは「依存」です。日本人の多くは、「周囲(他人)に迷惑をかけるな」と言われて育てられてきました。その影響もあってか、他者に依存することが苦手な人が多いように見受けられます。

 お釈迦さまは、「依存」や「人間関係」の問題についてどのように考えていたのでしょう。前回も取り上げた『スッタニパータ』の中で、以下のようにおっしゃっています。

 われらは実に朋友を得る幸せを褒め称える。自分よりも勝れ、あるいは等しい朋友には、親しみ近づくべきである。このような朋友を得ることができなければ、罪過(つみとが)のない生活を楽しんで、犀(サイ)の角のようにただ独り歩め。

 これはおそらく、お釈迦さまのお弟子さん(=修行者)に対して発した言葉だと推測されます。自分を高める修行をする際には、「自分より優れた者と親しむべきであり、そのような人がいないのであれば、独りで修業に励むべき」ということなのでしょう。

 また、「学識豊かで真理をわきまえ、高邁、明敏な友と交われ」(『スッタニパータ』)ともおっしゃっておられます。とにかく親しむ人や人間関係にはくれぐれも気を付けるようにということを弟子に伝えたかったのでしょう。
 
 とはいえ、私たちの実生活の中で、学識豊かで優秀な人が必ず自分の周囲にいるわけではありません。周りにそのような人が全くいないので、独りで孤独に生きていきます、というわけにもいきません。周囲の人びととの関係を全く築かず独りで生きてはいくことは、現実には不可能なのです。

 歳を取れば取るほど人間関係を広げることが億劫になり、気付けば狭い特定の人間関係しか残っていなかったという状況に多くの人が陥りがちです。その特定の人間関係が途切れると、孤独な生活が待っています。

 東京大学先端科学技術研究センター准教授で小児科医の熊谷晋一郎さんは、「自立とは依存先を増やすこと」とあるインタビューで答えておられました。一般的に、「自立とは誰にも依存しないこと」だと考えがちですが、決してそうではありません。
 
 若くて健康な時は一人で何でもできるかもしれませんが、歳を取れば取るほど自分一人ではできないことが増えてきます。そうなると、どうしても他人に依存せざるを得ません。ですから、依存先を増やしておくことが人生のリスク回避につながるのです。
 
 あるお寺の掲示板に、「できることが減りました。ありがとうが増えました」と書かれていました。多くの人びとに依存できるかどうかは、多くの人びとに対して「ありがとう」という気持ちを持ち、感謝できるかどうかが一つのポイントになります。
 
 プライドが邪魔して、感謝できない人も大勢見受けられますが、そのようなプライドは決して役に立つものではありません。無駄なプライドを捨てて、多くの人びとに感謝しながらきちんと依存できる「自立した」人間を目指したいものです。