『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』著者である借金玉さんは、発達障害(ADHD:注意欠陥・多動症)の当事者です。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
今回は、本書の内容を元に、発達障害の生活が改善したモノ、仕組みを紹介します(イラスト:伊藤ハムスター)

【発達障害当事者が教える】あと10分で外出するはずが1時間遅刻するADHDあるあるを解決する「玄関の仕組み」

消滅しがちなものを全部「ぶら下げろ!」

 僕の発達障害ライフハックにおける根幹といえるひとつが「本質ボックス」です。「部屋の中で定位置が決まってないモノは、全部ひとつの箱にぶっこんじまえ」という実にささやかな工夫なのですが、部屋が物に埋め尽くされていくあの大問題に対してきわめて強力な対抗策になり得ます。

 そもそも、なぜ我々発達障害者の部屋はぐちゃぐちゃになってしまうのか。

 もちろん理由(言い訳かもしれません…)はいくらでも挙げられますが、最も重要なのは「部屋にある物品の定位置が定まっていない」ことだと思います。エアコンのリモコン、読みかけの本、月末までに処理しなければいけない書類、タイプBのUSBケーブル(たまに必要になるから困りますね!)…そういった定位置を与えられていない物々たちはまず机の上を隙間なく占拠し、ソファを埋め尽くし、ついに最終防衛ラインたる「床」へと侵略を開始していきます。ここまでくるとあとはもう汚部屋への階段を転げていくだけ、そんな悩みを僕は20年以上抱えてきました。

「物の置き場所を厳格に定めて維持する」が理想なのはわかっています。でも、そんなことできるわけがない。なので、「置き場所が定まっていないものはとりあえずここにブチこもう」という箱を用意しておく、これが本質ボックスです。あまりにも簡単過ぎるハックですが、効果は間違いありません。

 しかし、このハックでは対応しきれないものがあります。「お出かけ前の準備」です。外へ出るために最低限必要な物品、財布にスマホに鍵に…そういったものが見つからず、外出前にパニックを起こしてしまう。本質ボックスの中にはあるはずだ…といいながらひっくり返して探していては間に合わない。長年僕はこの問題に困り続けて「神棚」というライフハックを開発しました。
 要するに、お部屋の中に「お出かけに最低限必要な物を置く神聖な場所」を作ってそれだけは定位置を守ろう、という工夫です。これも大変効果があるんですが、最近自宅の「神棚」を見ていてふと気づきました。これ、ヨコにしているから場所取るんであって、タテにすればいいんじゃないの? その方が一覧性も高いし、使い勝手もいいんじゃないか? と。

 そういうわけで、なるべく安い壁ネットを買ってきて、平面だった「神棚」を垂直にセットし直してみました。そういえば、「外に持って行く可能性のあるもの」ってそんなに多くないな、「神棚」の下に「外出用本質ボックス」を追加してみるか…。

【発達障害当事者が教える】あと10分で外出するはずが1時間遅刻するADHDあるあるを解決する「玄関の仕組み」著者の家の玄関近く。外出恐怖も治りました。
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 そんなわけでこうなりました。これがね、やってみたらなかなかイイんですよ!
・財布、名刺入れ、小銭入れをまとめたお出かけ用ポーチ
・鍵(神棚がないと、僕は絶対に鍵を紛失します)
・直近で読んでる仕事の本
・開けなきゃいけない、あるいは郵送しなければいけない封筒
・最近手放せなくなった胃薬
・最低限の身だしなみグッズ
・出かける前に最悪一本は胸ポケットにねじこんでいくペン立て
・高血圧で倒れて以来手放せなくなった血圧計(これはお出かけ用品じゃないですが、毎日使う上に紛失しやすいので…)
etc..

「外出に必要なものはここ」と定まっているだけで、あと10分で出るはずが1時間遅刻するADHDあるあるの症状はかなり緩和されるのですが、やはり平面に置くより「垂直な壁にぶらさげる」方が効果は大きいです。なにせ、一目で全部見えるし視界にも入りやすい。何より場所を取らないのが素晴らしい!

 発達障害の人にはおなじみの症状ですが、僕はちょっとした外出恐怖症のケがあります。家を出ようとすると、なんとも言語化しがたい恐怖みたいなものが起きるんですね。なので、「外に出る」スイッチを入れるための伊達メガネを使っています。「これを装備したら外出モード」にメンタルを切り替えるための大事な小道具なのですが、「家を出ようと思ったらメガネが見つからない」本末転倒がたびたび起きていました。お恥ずかしい限りですが、「メガネがない!外に出られない!もうだめだ!」みたいなパニックが起きるんです、いい歳して我ながら情けないとは思うんですが…。
 家に帰ったらメガネを外して、手持ちのアイテムを全部「神棚」にぶらさげ「外出用本質ボックス」に放り込む。この工夫と習慣付けで、久しくお出かけパニックを起こさずに済んでいます。

 何かと生きるのがしんどい発達障害者ですが、ちょっとしたライフハックで解決できるものは解決したい、そんな気持ちでささやかな工夫を模索し続けています。

※この記事は、『発達障害サバイバルガイド』の内容をもとに加筆・編集して作成したものです