コロナの感染拡大による在宅勤務や生活スタイルの変化により、20~30代の若い人たちの間で、つみたてNISA口座を開設する動きが急増した。そして、2024年からは新NISAがスタートする。本連載では、新NISAをきっかけに投資や資産形成を始めてみたいという人に向けて、失敗しないためのポイントをわかりやすく解説していく。新NISAはこの9本から選びなさい』(中野晴啓著、ダイヤモンド社)の内容を基に、一部を抜粋して公開する。「新NISAってなに?」というビギナーの人でも大丈夫。基本的なところからわかりやすく説明するので、ぜひ最後までお付き合いください。

「新NISA」の生涯投資枠1800万円は、多いのか、少ないのか?Photo: Adobe Stock

「新NISA」を使えるのは、
日本国内に住む18歳以上の人

「新NISA」の1800万円という生涯投資枠は、少ないのでしょうか。

「新NISA」を使えるのは、日本国内に住む18歳以上の人たちです。この条件を満たす人1人につき1800万円ですから、ある程度の年齢になって結婚すれば、夫婦で合計3600万円の生涯投資枠が使えることになります。

 総務省統計局が発表している家計調査報告には、1世帯あたりの平均貯蓄額の数字が掲載されています。2022年5月に発表された2021年分の数字を見ると、2人以上世帯の貯蓄額は、平均値で1880万円、中央値で1104万円でした。また、2人以上の勤労者世帯になると、平均値は1454万円、中央値は833万円となっています。

 ちなみに平均値は全体の平均なので、高額貯蓄者がいると、その人たちの貯蓄額に引っ張られてしまう傾向があります。ですから、恐らく大勢の人たちの実感としては、平均値よりも中央値の方だと思います。ちなみに中央値とは数字を小さい順に並べてその真ん中に来る数字です。

 2人以上の勤労者世帯の中央値が833万円ですから、生涯投資枠の範囲内で投資できる人が大半を占めることになります。つまり夫婦で3600万円という生涯投資枠は、十分なのではないかと思うのです。

「成長投資枠」での投資推奨に注意しよう

 ところで、つみたて投資枠で購入できる投資商品は、現在のつみたてNISAと同じ、インデックスファンド、アクティブファンド、そしてETFです。いずれも、長期の積立・分散投資に適した商品性を有する投資信託です。

 これに対して成長投資枠は、上場株式や投資信託等が対象になりますが、①整理・監理銘柄、②信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託及びデリバティブ取引を用いた一定の投資信託等は、成長投資枠の購入対象から外されています。

 なお、これについては2024年1月以降に「新NISA」を用いて資産形成を考えている人に対して、ひとつだけ注意喚起させてください。

 証券会社や銀行などの金融機関では、この制度を用いてお客さまに資産形成を勧める動きが、これから広がっていくと思われます。そこで注意しなければならないのが、成長投資枠での投資推奨です。

 つみたて投資枠で購入できる商品は、販売手数料のかからないインデックスファンドやアクティブファンドです。しかも信託報酬率も低廉なものが中心になっています。確かに、この手のローコストファンドは、資産運用をする人たちにとっては使い勝手の良いものなのですが、つみたて投資枠を使って投資信託の買付を勧める金融機関からすれば、ほとんど儲からないサービスです。

 現状、つみたてNISAで高い人気を誇っているインデックスファンドの信託報酬率から計算すると、1000億円の資産規模を預かって得られる信託報酬は、年間3000万円程度です。

 こうなると、多くの金融機関はつみたて投資枠などには目もくれず、成長投資枠を使った株式や投資信託の購入を勧めてくる可能性が高いと言えます。

 特に、成長投資枠で購入できる投資信託は、販売手数料無料といった制約は課せられていません。それこそ販売手数料が3%程度の投資信託を積極的に販売してくる可能性があります。

 また、購入した投資信託を短期間で解約させて、別な投資信託に乗り換えさせる回転売買が横行する恐れもあります。

自らが長期投資したいと思える商品を選ぶ

 一応、金融庁としては成長投資枠を使った回転売買の勧誘行為に対する監督指針を改定して、監督・モニタリングを行うことになっていますが、隙を突くことの上手な証券会社などは、あの手この手で個人の資金を成長投資枠に誘導しようとするでしょう。

 この点には十分な注意が必要です。成長投資枠は金融機関に勧められたものではなく、自らが能動的に長期投資したいと考える商品を選択してください。

中野 晴啓(なかの・はるひろ)
なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任、2023年6月に退任。
2023年9月1日なかのアセットマネジメントを設立。
全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にする活動とともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。公益社団法人経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員等を歴任。
著書に『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)他多数。