「あえてスタンスを取る」
コンサルタントのテクニック

仕事のデキない人が「たたき台」をつくる時に忘れている5つのこと仕事がデキる人のたたき台のキホン』 田中 志 著、アルク、1760円(税込)
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 さて、業種・職種を問わず、誰もがどこかで作成する必要に迫られるたたき台だが、どんなイメージをお持ちだろうか? もしかすると「真剣に作るものではない」と、やや軽視している人がいるかもしれない。

 著者の田中氏も、本書で「たたき台には、いつも『とりあえず』という枕詞がついてくる」と指摘している。「時間もないし、なんでもいいから『とりあえず』たたき台を作っておいて」という具合にだ。

 しかし、たたき台を軽視している人は“まだまだ甘い”ようだ。

 田中氏は、たたき台は「最強のコミュニケーションツール」だと主張する。「周囲を巻き込み、活発な議論を生み出すための道具」になり得るからだという。

 良いたたき台は、それを囲んで議論するだけで、企画書・提案書の改善点を見つけるきっかけになる。場合によっては、追加アイデアや別案の発想も湧いてくる。あるいはそもそもの方向性の誤りを発見できる。

 たたき台の「ツッコミどころ」が多いほど「伸びしろ」も大きく、企画や提案はブラッシュアップされていく。文字通り「たたかれてナンボ」の世界なのである。なので、たたき台は不完全なままでいい。いや、むしろ「不完全な方がいい」といえる。

 では、複数人での議論を活性化させる「不完全だけど、良いたたき台」は具体的にどうすれば作れるのか。田中氏は本書で、コンサルタントがよく使う「あえてスタンスを取る」という手法を紹介している。

 例えば、プレスリリースに盛り込む内容をAとBのどちらにするかで迷っているとしよう。この際、たたき台に両方を併記すれば、極めてあいまいな資料になってしまう。「どっちがいいですかね…」と企画会議での議論も平行線をたどるだろう。「どちらのスタンスも取っていない(どちらにも肩入れしていない)」ためだ。

 これに対して、肩入れしたい案を独断で決め、「片方だけしか載せない」というスタンスを取るとどうなるか。言い換えると、あえてBを伏せ、Aの内容だけを入れたたたき台を作ってみるのだ。

 そうすると、「あ、いいじゃん」「そうじゃなくて、ここで大事なのは…」といった反応が得られ、議論が始まる。いわば、スタンスを取ったたたき台が「刺激」となり、議論を引き起こしたわけだ。そうすればしめたものだ。

 ちなみに、この手法の上級者であるコンサルは、「顧客をあえて怒らせる」というテクニックを使ったりするそうだ。わざと見る人を困らせるようなデータをたたき台に入れるのだ。

 その結果、「こんな過去のデータを入れられちゃ困るよ! このプロジェクトはうちでは失敗ってことになっているんだから、表に出さないでほしい」などと本音が飛び出すこともある。そこでこちらは、相手の怒りをスルーしながら「すみません、これはあくまでたたき台なので。他に気になる点はありますか?」と言って、相手に存分にしゃべらせる。

 そうして相手の意向が見えてきたところで、それを最終形に盛り込んでいけば「そうそう、こういうのを求めていたんだよ!」と喜んでもらえたりする。