最大のネックは人材育成
産官学の緊密な連携が必要
国内の大型半導体プロジェクトにおいて、人材不足は深刻だ。開発も事業戦略も、最終的には良い人材が成功のカギを握る。
現状、わが国のロジック半導体の製造能力は、回路線幅40ナノメートルで止まった。それにより、半導体分野の専門家の育成も遅れた。23年5月に東京大学や京都大学などが1ナノメートル半導体量子細線の作製に成功するなど一定の研究体制はあるものの、人材の養成は半導体産業の成長、国際競争力向上に欠かせない。
半導体素子の製造技術面でも、迅速なキャッチアップが必要だ。現在、世界の半導体産業では、「GAA」(ゲート・オール・アラウンド)と呼ばれる技術の開発が加速している。GAAは、電気の流れをより効果的に制御するために、ゲートと呼ばれる電子部品と電流の接点を増やし、チップの性能向上を目指す。
ラピダスは、GAA技術への習熟を目的に、米IBMに社員を派遣している。当面、同社は経営陣の持つ国際的な人脈などを駆使し、人材の確保を急ぐだろう。同じことは、他の半導体メーカーにも当てはまるはずだ。
その上で、わが国の企業、政府は総力を挙げて次世代の人材を育成しなければならない。熊本大学は半導体関連の新学部創設を発表した。北海道大学も道内の大学と連携しつつ、ITやエレクトロニクス分野の学部定員を引き上げる。
それに加え、日本は半導体、製造装置、関連部材メーカーで研究実務に取り組むプロ人材に大学の教員や研究員として活躍する選択肢を提示し、教育・研究レベルを世界トップに引き上げることが必要だ。今後の人材の確保に向けて、産学連携の重要性はこれまで以上に高まるはずだ。
働く人々にとっても、半導体産業の構造や変化、最先端技術の特徴などを習熟する意義は増える。政府は、そうした民間企業や個々人の取り組みを、制度・資金面からバックアップしなければならない。
日本が半導体立国を実現するためには、人材不足というボトルネックの解消が避けて通れない。これは、わが国の経済が本格的に回復するかにも、大きく影響するはずだ。