ということは、タクシー運転手の賃金も上がらないということであり、微増した期間はあったものの、全体として減少か横ばいである。そして、労働時間も他の産業分野と比べて年間で100時間以上も長い。当然の帰結として、運転者起因の重大事故、過労運転件数は増加したし、運転手の運転技術水準は向上するどころか悪化する傾向さえ見られた。

 要するに、需給調整規制を廃止した結果、事業者間の競争が促進されて業界・市場が活況を呈したのでもサービスの質が一律に向上したのでもなく、業界・市場の縮小とサービスの質の低下という正反対の方向に進んでしまったのである。

 そして、なぜ運転手が減少してしまったのかと言えば、競争の激化によりコスト圧縮が必要となり、運転手に長時間労働と低賃金を強いる結果となったところが大きい。

 事業者としても客の奪い合いで売り上げが減少していけば事業を継続することは困難になり、事業の縮小や廃業を考えざるをえなくなる。緊縮財政により地方への投資が減り、利便性が低くなった地方から大都市へ人口が流出することで、人口が減少してしまった地方では、利用客数の減少から事業者は廃業を選択せざるをえない。

 つまり、需給調整規制の廃止という「改革」が、タクシーの運転手不足や事業者不足を招いた大きな原因であるということである。そうであれば、需給調整規制を復活させることで、適正な賃金と労働環境でタクシーの運転に従事できるようにし、徐々にタクシーの運転手と事業者数、台数を規制廃止以前の状態に戻していくことを考えるのが当然なのだが、なぜかライドシェア解禁という話になりつつあるのが現状である。

地域経済の衰退と
安全がないがしろにされるリスク

 ライドシェアを解禁すれば、この状況をさらに悪化させることが懸念される。まず、タクシー運転手への更なる賃金引き下げ圧力となって、更なる運転手不足を招くのみならず、地域の関連産業へと賃金引き下げ圧力が波及し、地域経済の更なる衰退を招くことになる可能性が高い。

 ライドシェアはいわゆる白タクと同じであるが、運転サービス提供者(素人の個人)と利用者を結ぶのはプラットフォーマーであり、このプラットフォーマーがライドシェアビジネスの中心である。