水素自動車が走り回る「未来」は実現しなさそうだが、もしかすると鉄道には「水素時代」が訪れるかもしれない。昨年から鶴見線・南武線でFC車両の走行試験を行っているJR東日本に続き、JR東海とJR西日本が相次いで将来構想を発表したのである。

 鉄道の環境性能は自動車より格段に優れているが、カーボンニュートラルが叫ばれる中、非電化路線を走る気動車(ディーゼル車)の排気ガスを無視できなくなった。ディーゼルエンジンで発電してモーターで走行するハイブリッド車も登場しているが、いずれは内燃機関自体が使えなくなる。

 そこで注目されるのが自動車と同様、バッテリー式の電車だ。JR東日本とJR九州は、電化区間は架線から集電して走行と充電を行い、非電化区間ではバッテリーの電力で走行する電車を実用化している。

 しかし、航続距離と充電時間がネックなのも同様で、実用的な走行距離は30キロメートル程度、速度も出せない。現状では電化された本線から分岐する非電化の短距離支線に、本線からの直通電車を走らせるのが限度である。

 少なくとも現在の技術水準では、非電化ローカル幹線で高速、長距離運転を行う気動車を置き換えることは困難であるため、ディーゼルエンジンと同等以上の走行性能を持ち、航続距離も長いFC車両に注目が集まった。

 自動車におけるFCVのネックは、鉄道ではほとんど問題にならなくなる。どこへでも行ける自家用車とは異なり、鉄道は特定の区間をダイヤ通りに走るため、車庫に水素ステーションを設置すれば定期的に充填できるからだ(これはバスやトラックでも同様であり、政府は商用FCVの普及を目指し、インフラ整備を進めている)。

2030年の実用化を
目指すJR東日本

 JR東日本が開発したのが、FV-E991系電車「HYBARI」だ。屋根上に設置した水素タンクから床下の燃料電池に水素を供給し、電池に充電。直接的には電池でモーターを回す仕組みだ。搭載するFCスタックは、燃料電池バス「SORA」やMIRAIに使われているトヨタ製のものを流用している。

 MIRAIは3本のタンクに計141リットル(充填圧力70MPa、以下同)の水素を搭載し、800キロ程度走行可能なので燃費は5.6km/L。一方、HYBARIは2両編成に20本のタンクを設置し、計1020リットルの水素で最大140キロ走行可能なので0.13km/Lとなる。