未実現のトップラインに対して10倍以上の評価を受けるのが普通だった2021年までのSaaSスタートアップとは対照的な評価です。またこうした未上場スタートアップが上場を目指す一方で、成長のために未上場化を選択するといった点も、非常に対照的です。代表的Post-IPOスタートアップであるユーザベースのTOB受け入れは、Pre-IPO/Post-IPOの温度差を如実に示す、象徴的なコーポレート・アクションと言えるでしょう。
その反面、2022年11月末時点において、国内ベンチャー投資額自体は2021年と比較しても遜色ない次元であることがわかっています。これは北米等、2022年のベンチャー投資額が前年対比で激減している地域とは大きく異なる傾向です。たしかに足下、主にレイトステージにおけるスタートアップの資金調達は前年までと比べると向かい風が強いという肌感はありますが、定量的にはそこまで深刻な影響が及んでいないことをうかがい知ることができます。
他地域に比べると、今までの国内ベンチャー投資額が十分に伸びていなかっただけに、その影響も軽微だったということなのかもしれません。
2022年は各所で「スタートアップ冬の時代」というフレーズを耳にしました。この点、ベンチャー投資が上り調子一辺倒だった2021年とまでは明らかに局面が変わったものの、2022年はせいぜい「スタートアップの秋」程度だったのかもしれません。年間ベンチャー投資額が700億円規模だったリーマンショック後と比べると、明らかに層の厚みが異なりますし、環境は良くなっています。
2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
・Web3
日本国内においては、Web3が最も盛り上がった1年だったと感じます。今までのスタートアップとは明らかに異質な起業家が多く出現し、独自進化を遂げています。シード段階では「Web3かそれ以外か」といった様相を呈していました。一方で、実態以上に既存テック企業との対比を強調するナラティヴが過剰に先行する印象も強く受けています。
2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。
ベンチャー投資が上り調子一辺倒だった2021年とまでは明らかに局面が変わり、「秋の時代」に突入した国内スタートアップシーンですが、2023年はこの秋が深まるのかどうかに注目しています。
2023年も引き続き弱気相場が持続するというのが一般的なコンセンサスだと捉えています。スタートアップもそうしたマクロの影響から逃れることができないのは2022年に再認識させられたことですが、一方で「スタートアップ育成5か年計画」など、日本国内に関してはスタートアップをより政策的に後押しする方向感が取りまとめられています。