DIMENSION 代表取締役社長 ジェネラルパートナー 宮宗孝光
スタートアップ業界にとって、進化・拡大を後押しするプラスの発表だと考えています。内閣がスタートアップに言及した大型施策を発表することで、省庁や自治体、大企業も本格的に「スタートアップ」に意識を向け、日本全体でスタートアップに人・モノ・お金・情報が集まるようになるはずです。結果として事業規模的にも意義があるスタートアップが生まれやすくなると思っています。
いくつかの施策は、途上で修正が必要になるとも感じていますが、VC・CVC全体で協力しながら「5か年計画」の達成を後押しし、スタートアップの創出にも貢献しながらスタートアップ業界全体のさらなるステージアップが図れればと思っています。
シニフィアン 共同代表 朝倉祐介
大前提として、スタートアップが政策議論の重要なアジェンダとして俎上(そじょう)に載るようになったことは非常に心強いことですし、歓迎します。そのうえで、スタートアップを取り巻く議論が一過性のものではなく、より本質的な国家の成長戦略にまで発展することを望みます。
特に着目しているのは、「スタートアップ育成5か年計画」の中で第二の柱として重要な論点に据えられている「資金供給の強化と出口戦略の多様化」です。スタートアップを巡るお金の流れについては、今の延長線上の環境下から本質的なインパクトを持つスタートアップが日本から続出するとは思えず、大胆で非連続的な施策を実行しないことには手詰まるという閉塞感と焦燥感を覚えています。その一方で、政策起点による資金の過剰供給が未上場段階における官製バブルを引き起こし、長期的にはスタートアップ全般に対する幻滅と信頼喪失に繋がるのではないかという懸念も強く持っています。
政策的観点から値付けされたスタートアップの株価も、上場後は市場の厳しい目にさらされ、資本の論理で評価されることになります。このとき、未上場時の評価が大きく切り下げられるような事態が続けば、スタートアップを見る世の中の目は大変厳しいものになることでしょう。世の中から信任されないものが社会に根付くとは思えません。
この点、大きな先行投資を要する研究開発型のスタートアップやレイトステージなど、特定分野・特定フェイズにおけるリスクマネー不足は切に感じますし、こうした特定分野においては一定程度、意思を持った政策的資金供給があって然るべきだとは思います。ただ、スタートアップに対する直接的な資金供給の担い手は民間の投資家であることが大原則であり、公的な資金は民間投資家のバックアップであって然るべきだと考えます。スタートアップへの資金供給がずさんなばらまきではなく、規律の効いた効果的な方法によってなされることを望みます。あくまで程度問題であり、方法論の問題です。
本質的にスタートアップが育つ環境の創出を本気で目指すのであれば、最も効果的な施策は過去のツケを一掃する覚悟で徹底的に構造改革に取り組み、社会と産業の新陳代謝を促すことでしょう。当たり前の話ですが、閉塞感漂う衰退市場でリスクをとって事業を興す人が続出することを望むのは厳しいものがあります。日本が新たに事業を興そうと思う起業家にとって魅力ある市場でなくてはなりません。
この点、スタートアップは成長産業のけん引者のみならず、日本社会の行動変容を促す黒船としての役割を担い得る存在です。その黒船の創出を内製化できることが、スタートアップ支援最大の意義だと私は思います。新しいものを生み出すことと、歴史的使命を全うした古いシステムの退出を促すことはコインの裏表です。「スタートアップ育成」という表面的な大義をもって、古いシステムの退出をぬるりとなし崩し的に促すことが、リーダーシップを受け容れる土壌のない日本における構造改革の道筋であり、そうしたプロセスを通じてさらにスタートアップの創出・参入を促すといった好循環を生み出せないものかと思う次第です。