「その美味しさに感動したのと同時に、この味をどこでも食べられるような仕組みを作ることができればイノベーターになれるのではないかと思いました。自分が培ってきた冷凍技術を使えば、それが実現できるかもしれない。この領域なら自分自身にしかできないチャレンジができる、ある意味『宿命』のようにも感じたことが、起業のきっかけとなりました」(木下氏)

露店では複数の店舗で同じようなフルーツが並べられており、余ったものが大量に廃棄されていることを知った。そのような状況下で生産者や販売者が儲かっているのかといえば、決してそうではなかった。

廃棄してしまっているものを冷凍して価値ある商品に変換できれば、生産者や販売者にも対価を戻せるのではないか。当時は「フードロス」や「サーキュラーエコノミー」といった概念の注目度は高くはなかったが、冷凍技術が社会課題の解決に繋がるかもしれないという見立ては起業前からあったという。

木下氏は2013年にデイブレイクを創業し、思い入れの強かった「冷凍」を軸に事業を始める。とはいえ最初はメーカーとしてではなく、既存の冷凍機を扱う代理店としてスタートした。

翌年には複数の冷凍機を掲載した比較サイトを立ち上げ、「冷凍機版の保険の窓口のような立ち位置の会社」として、顧客のニーズを聞きながら最適なものを提案した。

複数の会社を横並びにして比較する仕組みには、当初反発もあった。ただ「本当に良いものを作っている会社にとっては、販路の拡大にもつながる」と木下氏自ら各社の代表に直接説明して回り、理解を得ながら事業を作っていったという。

ただ、代理店事業が広がるに連れて、次第に課題を感じるようにもなった。デイブレイクには、さまざまな顧客から冷凍機に関する要望や製品へのフィードバックなどが集まる。それを各メーカーに何度も伝えていたが、なかなかアップデートが進まず、思い描いていたような製品が生まれない。顧客のニーズとの間にギャップが広がっていた。

また市場の競争環境自体も変わり始めていた。デイブレイクのサイトを模倣するような競合も出始め、会社としても事業内容にテコ入れをするフェーズに差し掛かっていた。

顧客のニーズに応えるために、自分たちで冷凍機を作ろう──。

デイブレイクでは祖業の代理店事業に加えて、2016年には冷凍フルーツをオフィス向けに販売する「HenoHeno」事業を開始するなど事業領域を広げていたが、2020年に自社で冷凍機を作ることを決断。そこから生まれたのが現在の主力製品となっているアートロックフリーザーだ。