これまでもMANGA Plusでは英語版を筆頭に、複数言語での同時配信に取り組んできた。通常は現地の出版社がパートナーになることが多いが、ベトナム語版の展開に関しては納期の面で負担が大きいことなどから、実現には至っていなかった。だがMantra Engineを使うことで、その課題がクリアできたのだという。
Mantraでは2021年にも小学館と翻訳システムを用いた日英版の同時配信プロジェクトを実施しており、今回はそれに続く新たな取り組みとなる。
なおMantraは2022年10月に集英社を含む複数社から資金調達を実施している。同年6月からは集英社の協力のもと、人気マンガで英語を学べる学習サービス「Langaku(ランガク)」も運営してきた。
マンガ特化の翻訳システムとして拡大、大規模言語モデル統合の新エンジンも
Mantraは2020年設立のスタートアップ。東京大学の情報理工学系研究科で博士号を取得した、2人の研究者が立ち上げた。
代表取締役の石渡祥之佑氏は自然言語処理領域、共同創業者でCTOの日並遼太氏は画像認識領域が専門で、互いの知見をかけあわせてMantra Engineを開発した。
Mantra Engineには大きく2つの特徴がある。1つはマンガに特化した機械翻訳システムであること。マンガの機械翻訳においては、吹き出し内の文字や多様なフォントを正しく認識できなければ成り立たない。Mantraではマンガに特化することで、専用の文字認識エンジンと、機械翻訳エンジンを作り込んできた。
もう1つの特徴は、翻訳者などにとって「共同作業用のソフトウェア」として機能することだ。
マンガの翻訳版の作成にあたっては、言語の翻訳作業だけではなく、翻訳した内容を吹き出しの中に入れる“デザイン的な作業”や内容の校閲や監修のような作業も含まれる。
こうした作業は「最初の工程がExcel、その次がPhotoshop、その次がさらに別のサービス」といったように、異なるソフトウェアが使われることも多く、業務効率の観点で改善の余地があった。
Mantra Engineでは一連の作業や担当者間のコミュニケーションが1つのサービス上で完結し、複数の工程を同時並行で進めることもできるため、作業スピードの向上が見込めるのがポイントだ。
このような以前からの特徴に加えて、6月からは大規模言語モデル(LLM)を統合した新たな翻訳エンジンの提供も始めた。関野氏によると、大規模言語モデルの統合によって機械翻訳の正確性や一貫性が強化されただけでなく、マンガの対訳データが少ない言語への翻訳精度が大幅に改善されたという。