「これまでは限られた言語では精度が良かったものの、対訳データが少ない言語においては(機械翻訳の)品質に課題があった」(関野氏)が、新エンジンによって対応できる言語の幅が広がった。

今回の集英社との取り組みにおいて、短期間でのベトナム語の翻訳支援を実現できた背景には、大規模言語モデルを用いた新エンジンの存在も大きかったという。

エンタメ領域でも高まる「AI翻訳」の可能性

直近ではマンガ特化の深層学習モデルを開発するOrangeが約2.5億円を調達するなど、国内でも新たなマンガ関連スタートアップが生まれてきている。大規模言語モデルが普及すれば、マンガに限らず「AI翻訳」の活用シーンは今後さらに広がっていきそうだ。

実際にMantraにも、機械翻訳を用いた新たなビジネスに関する問い合わせが増えてきているという。同社としても今後はマンガに力を入れつつも、ゲームや映像など他のエンタメ領域にも事業を拡張していく計画だ。

「最近は運営型のゲームが主流で、(ゲーム内で)定期的にイベントを開催したり、内容をアップデートしたりしながら展開していく作品が増えています。他言語で同時展開をするとなると、マンガの連載と同じようにリアルタイム性が重要になる。そこが(従来の翻訳のやり方では)課題になっていました」

「また小説のようにテキストの量が多いコンテンツの翻訳は、どうしてもコストがかかってしまいます。あらかじめヒットすることが見込める作品でなければ、翻訳版に挑戦するハードルが高かったんです。このようなスピードやコストの問題は、機械翻訳と相性が良い。(機械翻訳を活用して)より多くのエンタメコンテンツを翻訳できるようになっていけば、マンガ以外の領域も含めて、言語の壁を下げていけるのではないかと考えています」(石渡氏)