最初の工程は同社の編集者がインフルエンサーの原体験を深く掘り下げ、ブランドのコンセプトを一緒に練っていくところから。picki代表取締役の鈴木昭広氏は「ブランドの軸となる世界観を整理して、それを服の形で表現するという観点では自分たちの仕事も編集だと思っています」と話していて、この工程がオリジナルブランドを作っていく上でも大きなポイントになるという。
その点pickiには出版社のコルクが株主として参画しているのも興味深い。原体験を聞く際には同社の代表を務める佐渡島庸平氏直伝の“質問集”を用いるなど、プロ編集者の知見も取り入れられている。
コンセプトを固めた後は具体的な企画からデザイン、生産へと進んでいくが、pickiでは一連の過程を記事や動画などの「コンテンツ」にして配信する。SNSを軸とした個人ブランドでは「いかに熱量の高いファンコミュニティを構築できるか」がカギを握り、そのためには服を作るプロセスにファンを巻きこむことこそが重要だからだ。
「この記事についてどう思うか」「服の型はどうか」など、各プロセスごとにオンライン上でファンの意見を求めるだけでなく、試着会などのリアルなイベントで直接フィードバックをもらう。当事者として一緒にストーリーを作り上げる体験を通じて愛着や共感が深まるからこそ、鈴木氏いわく「売る前から売れるモデル」が成立する。
pickiではそのように出来上がった完成品を主に「予約販売形式」で提供。注文が入ったあとで生産する仕組みを採用することで、在庫リスクも減らせる。
このモデルを実現する上では、中国の協力工場の存在も大きい。通常は難しい100枚などの小ロット生産にも柔軟に対応できるため、個人ブランドの要望にも応えられる。
鈴木氏はpickiを始める前に韓国や日本でアパレルOEM会社を経営していた人物だ。その後「世界に挑戦できるような事業をやりたい」という思いから、約1年半の間に世界50カ国以上を回った。その期間を通じて海外では日本のものづくりが高く評価されていること、アメリカではD2Cモデルのブランドが勢いを増していることを知り、この領域なら自分でも挑戦できると考え2017年に創業したのがpickiだ。
従来のアパレル産業では分業体制が進んでいたため、消費者の手に商品が届くまでに複数のプレイヤーが介在していた。商社やメーカー、卸売、小売店など中間業者が増えるほどコストも膨れ上がるが、pickiでは一連の業務を全て同社が担うため発生するマージンも少ない。結果としてインフルエンサーにより多くの収益が還元される仕組みを作れているという。