その結果、低い生産性が業界の課題となっていると中平氏は指摘する。「キツい、給料が安い、人が減る」の三重苦の中にあるデザイン業界において、「ネガティブループを逆回転させて生産性向上を目指すのが、AIR Designというプロダクトの目的です」と中平氏は語る。
プロダクト着想のきっかけは、2015年9月のこと。当時ガラパゴスに入社した信頼の置けるデザイナーから、中平氏に自社ロゴの提案があったのだが、「提案書を見て、自分のそれまでの認識が間違っていたんじゃないかと気づいた」と中平氏は振り返る。
「まず『なんかテキストが多いな』と思ったんですよね。それまで、ロゴって右脳で作るアートだと思っていたんですが、本当は左脳で作るものだったんじゃないかと気づいた。さらに、提案書には『ロゴの図と地のバランス』や『カーニング(文字の間隔を書体に応じて調整すること)、ウエイト(フォントの太さ)』を精査したいとあった。それって、パラメーターで定量化できるものですよね」(中平氏)
「デザインは科学的に、再現性を持って作れるものかもしれない。それなら生産性も向上できるはずだ」と考えた中平氏は、2015年12月にデザインAIの研究開発をスタート。当時30人ほどの規模だったガラパゴスで、アプリ開発に携わっていたサーバーサイドエンジニア2名と中平氏とでプライベートプロジェクトを立ち上げ、ロゴの自動生成ができるAI開発を目指すことになった。
デザイナーの職人としての思考プロセスを可視化することで、デザイナーの「左脳」を再現。GAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)と呼ばれるディープラーニングを応用した生成モデルを用いて、400万個のロゴをAIが画像解析してパターン認識させ、ロゴの自動生成を試みた。
そして2018年8月、ロゴの自動生成を行うAIが完成。フォントや色、モチーフなどのオーダー情報をAIにインプットすると、数千パターンのロゴが一気に自動描画で生成され、AIのおすすめ順に表示されるので、人間はその中から最適なものを選ぶだけでよい。また、名刺や看板などにロゴを適用したときのイメージも自動で生成できる。
中平氏によれば、このAIでロゴデザインの生産性は150倍になったという。「AIは人間より60倍速くロゴを作れます。さらに当社では一時、クラウドソーシングサービスでロゴ制作の依頼に対して、AIであることは伏せて提案を行っていたんですが、70人ぐらいのフリーランサーのライバルとして競争した結果、採用確率は人間の2.5倍で、品質の面でも遜色ないことが証明できました」(中平氏)