「KIRINらしさ」と「お客様主語」への転換
小西:なるほど。アルコールで酔うことが目的ではなく、気分や味わいを楽しむ、という意味では清涼飲料的な価値と重なってきているかも知れません。
また、商品カテゴリが違っても、お客様から見た「KIRINらしさ」というのは確かにあると思います。たとえば品質へのこだわりや、上質さなどは多くの商品で感じられる部分ではないでしょうか。
江部:はい。「品質本位」というのは、KIRINの原点になっています。たとえば、清涼飲料でもキリンレモンは発売当初の昭和3年から原料にこだわっていましたので、KIRINが作っていることが品質保証になっていたと思います。昔はキリンレモンにもKIRINの聖獣マークがついていましたし、今もびんにはついています。
(株)電通ブランドクリエーションセンターのチーフコンサルタント。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカーらとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在戦略コンサルティング部のチーフコンサルタントとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書に「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」(ダイヤモンド社)。
電通ウェブサイト内「電通人語」でもコラム連載中。
小西:原料や素材、製法など見えない部分へのこだわり、というのもKIRINらしい部分ですね。ビールの「一番搾り」などでも、有名な一番搾り製法はもちろん、最高品質の麦芽やホップを惜しげもなく使っているという話をお聞きしました。
江部:確かに、「一番搾り」も製造コストがかかるため、発売前はプレミアムビールとして発売することも検討していたそうですが、ビールのど真ん中の価値を新しく提案するということで、定番商品で打ち出しました。
しかし、品質へのこだわりが、ときに作り手の独りよがりとなって受け入れられないこともあります。私たちは今、もう一つのKIRINらしさである、「お客様本位」をもっと磨かなければいけないと考えています。
今までは、自分たちの商品の良さやおいしさを伝えようとする「KIRIN主語」の発想になりがちでしたが、それを「お客様主語」に転換していく必要があると考えています。
小西:生活者が自分にとって興味のある情報しか聞かなくなった今日において、ブランドがお客様に近づいていくためには、主語を転換していくことは重要なポイントですね。
江部さんは長く商品開発で、「午後の紅茶」「のどごし<生>」をはじめ、KIRINの顔となるような商品ブランドに関わってきました。これらのブランドはまさにお客様とともに成長してきたと思いますが、ブランド成長のエピソードをお聞かせください。