ノンデスクワーカーの記帳作業を効率化

カミナシが開発し提供する「カミナシ」は製造、飲食、ホテル、運輸、建設など、さまざまな業界のノンデスクワーカーが活用できる「現場管理SaaS」だ。作業員用のアプリと管理者用のウェブサービスで構成され、従来は紙とペンで行っていた記帳業務をデジタル化する。

例えば1時間に一度行う温度管理の記帳作業があるとする。これまでなら紙に時間と温度、担当者のサインを書き込んでいたが、アプリで温度を入力し、写真を撮影するだけで完了となる。データはクラウドに自動的に保存される。工場の責任者はPCやタブレットなどを使用し、作業員からの報告を待つことなく、リアルタイムに管理の状態を確認できる。

アプリには作業をナビゲーションする機能も備わっている。作業員はアプリの指示通りに必要な情報を入力したり写真を撮影するだけで、記帳作業を完結できる。作業間違いが発生した場合にはアラートで知らせてくれるほか、作業内容を自動で責任者に送信してくれる。

カミナシの現場作業員向けモバイルアプリのイメージ
カミナシの現場作業員向けモバイルアプリのイメージ 提供:カミナシ

食品製造工場などでの勤務経験が原体験

諸岡氏は千葉県・成田市の出身だ。同氏は新卒で入社したリクルートスタッフィングで数年間勤めた後に、父親が経営するワールドエンタープライズに入社する。同社は航空会社やホテルなどのアウトソーシングを担う会社。そこでは食品製造工場での勤務や、空港のチェックイン、ホテルの客室清掃など、さまざまなアナログ業務を経験した。

諸岡氏は当時を振り返り、「紙に記帳した情報を事務所に持ち帰り、エクセルに入力してデジタル化する。どの現場でもこのような非効率が発生しており、『どうにかしなければならない』と思っていました。この非効率こそが、カミナシを開発するに至った原体験です」と語る。

だが、そんな原体験を事業アイデアに落とし込むまでには紆余曲折あった。

当時、「単に父親が築いた会社を成長させるだけでは面白くない」と考えていた諸岡氏は、父親から2000万円の予算を確保し、社内起業する。新聞折込チラシのデザインを簡単に作成できるウェブサイトを立ち上げるも失敗し、1年ほどで事業を閉じる。

社内起業にこそ失敗したものの、父親と同じように「32歳で起業したい」と考えていた諸岡氏。「これからの時代はITだ」と確信していた同氏は父親に頭を下げて退職し、東京都のプログラミングスクール、ジーズアカデミーに1年間通うこととなる。

「地元の成田には(テック系ニュースサイトの)TechCrunchを知る人すら周りにはいませんでした。『TechCrunch? 何そのお菓子?』みたいな(笑)。当時は、自分がいたノンデスクワーカーの世界が“イケてない”と思い、逃げ出したかったんです。ジーズアカデミーに入学したのはちょうど(人事労務クラウドの)SmartHRが注目を集め始めたころ。『あのSaaSは良いよね』という会話が飛び交う世界に初めて身を置きました 」(諸岡氏)