諸岡氏は当時、「toCのサービスを開発したい」と考えていたという。だが、良いアイデアはなかなか浮かばない。サービスを企画し 東京都が主催する「Tokyo Startup Gate」など、さまざまなアクセラレーターに応募するも、採択されることはなかった。ただただ唇を噛み締める毎日を過ごしていたという。

“バーティカル”から“ホリゾンタル”SaaSへピボット

転機は2016年の10月に訪れた。諸岡氏は500 Startups Japan(現Coral Capital)が開催する起業相談会のオフィス・アワーに参加。父親の会社で経験した“非効率”を語ったところ、マネージングパートナーの澤山陽平氏から「そのバックグラウンドは貴重だ」とアドバイスを受けた。このアドバイスがきっかけとなり、諸岡氏は食品製造工場の業務を効率化するためのサービスを開発することとなる。

諸岡氏は「父親の会社で感じた“課題”と、これから挑むべき“挑戦”が見事に噛み合った瞬間でした。このアイデアならば自分の経験が武器となり、世の中を良くしていけると確信しました」と当時を振り返る。

その年の12月に諸岡氏はカミナシ(当時の社名はユリシーズ)を設立。約1年半後の2018年5月には500 Startups JapanやBEENEXTを引受先とする総額5000万円の資金調達を実施。同時にカミナシのベータ版をローンチした。当時のサービスは食品製造業工場での利用に特化したバーティカル(業界特化型)SaaSだった。

そして前述のとおり、カミナシが正式にローンチしたのは2020年6月のこと。その“新生”カミナシは、さまざまな業界で活用できるホリゾンタル(業界横断型)SaaSに進化していた。

カミナシだけで全てが揃う“オールインワン”SaaSを目指す

ピボットの理由は、もともと狙っていた市場の小ささが要因にある。食品製造業界に特化する場合、目標としていた20億円のARR(年間定額収益)を達成するためには、40万円という高額なARPU(顧客平均単価)を設定する必要があった。

そこで諸岡氏は、カミナシを食品製造業界だけでなく、製造、飲食、ホテル・サービス、運輸・旅客、設備・建設など、さまざまな業界のノンデスクワーカーが「作業記録」に活用できる新サービスへと進化させた。具体的には、「チェックリスト」や「マニュアル」といった機能を用意し、導入企業が自ら項目や内容を設定できるようにした。

諸岡氏はそんなカミナシを「現場向けノーコードツール」と呼ぶ。今後はより多くの現場で活用できるように機能を拡充させていくという。