卸売業者向けの管理画面。LINE、FAXによる注文を一元管理する 提供:クロスマート卸売業者向けの管理画面。LINE、FAXによる注文を一元管理する 提供:クロスマート
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「総合卸売店の中には、1日で3000枚近いFAXが送られてくる店舗もあります。それらを受け付けるためには、最新型のFAX機が必要です。ですがそのリース代などランニングコストは、月に100万円近くにもなります。そして受信したFAXの内容をパソコンに入力しないといけません。その人件費も相当な額になります」(寺田氏)

 クロスオーダーの価格は、初期費用が20万円、一番安価なプランで月額5万円と決して安くない。だが大型の卸売業者のみならず、家族経営の八百屋などが導入するケースも増えている。寺田氏は、「たとえ小さな卸売業者であっても、デジタル化によって得られる恩恵がとても大きいからではないか」と分析する。

「時間や金銭面での負担以外にも、FAXでの受発注業務は飲食店とのトラブルにもつながりやすい。例えば、手書きの数字がわかりづらく注文数を誤認したとしても、“買ってもらっている”立場の業者は飲食店側の主張を泣く泣く飲まざるを得ない。しかも、翌日の営業に必要な食材を前日の営業終了時に発注する飲食店も多いため、業者は深夜からFAXの入力作業に追われます。こうしたリスクが軽減する上に人件費も削減できるので、受注のデジタル化は絶大なメリットがあるんです」(寺田氏)

成功するDXの秘けつ、飲食店を「取り込まない」戦略

 東証一部市場に上場するインフォマートやスタートアップのハイドアウトクラブなど、先行する競合サービスを開発する企業は複数存在する。だが2019年1月以降、クロスオーダーの成約率は顕著に伸びており、営業に対する成約率は8割を超えているという。

 その大きな要因が、前述したFAXのOCR機能だ。技術自体は決して珍しいものではないが、「この機能があることで、卸売店がクロスオーダーを導入する意向は大きく高まっています」と寺田氏は語る。その理由は、卸売店の受発注デジタル化を阻害する大きな要因が、取引先である飲食店にあるからだと説明する。

「飲食店の経営者には高齢の方も多く、クロスオーダーをご案内しても半数近くは『LINEを使うのが難しい』と言われてしまいます。また、飲食店にとって発注のデジタル化は便利ではあるものの、卸売業者に比べればはるかかに恩恵が薄い。せっかく業者がクロスオーダーを導入しようとしても、取引相手である飲食店が賛成しなければ、結局はFAXでの注文に対応しなければなりません。こうした背景から『受発注を変えるなら、まず飲食店を変えろ』が業界の常識でした」(寺田氏)