オンライン注文機能を使って買い物をするにはネットスーパー側の会員登録が必要になるが、そのフォームが煩雑でユーザーが離脱してしまう。さらに希望の配送時間帯がすぐに埋まってしまい、使いたくても使えないのだ。

そこを何とか潜り抜けて注文までたどり着いても、今度は欲しい商品が欠品状態。つまりタベリーをいくら磨いたところで、自分たちでは直接コントロールできない部分にこそ根本的な課題があったのだ。

「本気でユーザーの体験を10倍良くすることを目指すとなると、タベリーだけをやっているのではそこに一生到達できないということに気づきました。そもそも小売事業者側が抱える問題を解決しないことには本質的には変わらない。この事実はタベリーをやったからこそ発見できたものであり、今振り返ると自分たちにとって非常に大きな出来事だったと思っています」(矢本氏)

もう1つ、オンライン注文機能が小売企業から軒並み高評価を得られたことも、その後の10Xに大きな影響を与えた。

同機能をリリースする1〜2週間前、矢本氏たちはAPIを開発した小売企業に話をしに向かった。この機能を実装することが問題ないか最終確認をとるためだ。

一通り基盤やUXについて説明をし終わった後、セキュリティ面について細かいすり合わせを行い、最後に10Xが目指しているビジョンを話した。一連のやりとりを終えると、事業者側からは「まさに自分たちが過去何年にも渡ってずっと作りたいと思っていたけど、できなかったもの」という反応が毎回のように返ってきたという。

こうして何事もなくオンライン注文機能はローンチを迎えたが、それ以降も小売企業との関係性は途絶えなかった。提携していない企業からも問い合わせが来るようになり、何度もディスカッションを重ねるうちに業界が抱える課題への解像度が高まり、信頼関係も強まっていった。

少し先の話にはなるが、特に関係性の強かったイトーヨーカ堂からは最終的に「自社のアプリを作って欲しい」と言われるまでになったという。

ヨーカ堂も認めたスタートアップ・10X、“ノーコードでネットスーパー立ち上げ”の舞台裏
 

失敗に終わった自前でのネットスーパー立ち上げ

ここで少しだけ時間を戻そう。オンライン注文機能をローンチしてから数カ月が経った2019年の夏。まさに小売企業と話をする機会が増え始めていたその頃、10Xの内部ではある1つのプロジェクトが進んでいた。

開発していたプロダクトの名前は「タベクル」。オンライン注文機能での学びから自分たちで全ての問題をコントロールするにはどうしたらいいかを模索した結果、「自分たち自身がフルスクラッチでネットスーパー事業を立ち上げてみてはどうか」と考えて開発したものだ。