当時、大手ネットスーパーの開発責任者が知り合いだったため、話を聞きに行ったところ「外部のチャネルを連携するようなAPIはなく、社内でも商品データの管理はPOSからバッチ処理で引いてきている」ことを知った。
「(IT企業の)メルカリを退職した直後だったので、『そんなレガシーなことがあるのか』と面食らいました」と矢本氏は当時の心境を振り返る。
既存のネットスーパーとAPIで繋いでシームレスな買い物体験を実現する。どうやらそのアイデアを形にするのは難しそうだが、圧倒的に便利なユーザー体験を実現し、大きなインパクトを与えうるプロダクトを作るにはネットスーパーとの連携は不可欠だった。
それならばAPI連携によって実現しようとしていた仕組みを、自分たちで開発してしまうしかない。そんな“無茶ぶり”に近いようなアイデアから、革新的な「オンライン注文機能」が生まれる。
同機能は端的に説明すると、タベリーで作った買い物リストの食材を数タップでオンライン注文(対応するネットスーパーで注文)できてしまうというもの。ユーザーからは非常にシンプルに見えるが、実は裏側ではかなり複雑なシステムが作り込まれている。
まずネットスーパー全拠点の商品データをクローリングして自社のデータベース(DB)にマッピングした上で、店舗ごとに異なる商品の表記や単位を統一化する処理を施す。たとえば「にんじん」1つとってもひらがな、カタカナ、漢字があるので共通の「にんじん」というラベルを貼る。同じように単位も1本、1袋、100gなど店舗によって異なるので、全てをグラムに統一する。そんな作業をSKUごとに行うイメージだ。
そこから各ユーザーの献立に応じて「どの商品をマッチングさせるのが適切か」を自動で判別し、タベリー上から商品をショッピングカートに入れて決済ができる仕組みを作った。いわば自力で「ネットスーパーDB/API」を作り上げたわけだ。
2018年9月に開発を始めて、この機能が実際にiOSアプリに搭載されたのは翌年の5月。実に約8カ月がかりの一大プロジェクトになったが、その分だけ手応えも大きく矢本氏も「これは勝ったなと本気で思った」という。
タベリーだけをやっていても、理想には一生到達できない
期待を込めてリリースしたオンライン注文機能ではあったものの、ローンチ後の反響は必ずしも想像した通りではなかった。実際に使ってくれた人には明確に刺さり、リピート利用にも繋がったがそれはあくまで一部のユーザーのみ。ほとんどのユーザーには使われずじまいだった。