「行動経済学」について理解を深めることは、様々なリスクから身を守るためにも、うまく目的を達成するためにも、非常に重要だ。『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』を推薦する、東京大学大学院経済学研究科教授の阿部誠氏は、著書『大学4年間の行動経済学が10時間でざっと学べる』などで最先端の知見をわかりやすく紹介している。私たちは仕事や日常生活に行動経済学をどう活かせばよいのだろうか? 阿部教授にお話しを伺った。
ナッジを活用して行動を習慣化する
新年になり、「今年は何か新しいことをはじめよう!」と思う方は多いと思います。
しかし、「三日坊主」という言葉があるとおり、新しい習慣を身につけるのはなかなか難しいものです。
つい、怠けてしまったり、「明日からやればいいや」と思ってしまいがちです。
そこで、そうならないための仕組みとして「ナッジ」をつくりましょう。
ナッジとは「本人にとって望ましい行動を自発的に選択できるように促すこと」を指します。公共政策などでよく使われる概念です。
ナッジには
① 義務、強制ではなく、自身の意思で自由に行動できる
② 本人のためになる
③ 経済的インセンティブは最小限
④ 仕組みは簡単で安価
という特徴があります。
ナッジを設計する際は「BASIC」という枠組みが使えます。
B Behavior →人の行動を調べる
A Analysis →行動経済学的・心理学的に分析する
S Strategy →ナッジの戦略を構築する
I Intervention →ナッジで介入する
C Change →制度変更を起こす
たとえば、「毎朝ランニングをしよう!」と思っても、なかなか継続できない場合を考えてみましょう。
まず、なぜランニングができないのか、行動を調べます(B)。
すると「朝はつい別のことをしてしまう」とわかりました。
次に、心理的な観点から分析してみましょう。「別のことをしてしまう」のは、「ランニングをしなくても何の影響もないので、優先度を下げてしまう」のが理由かもしれません(A)。
そこで、ナッジの戦略を考えてみましょう。
たとえば、ランニングの優先度が上がるように「ランニングをしなかった日は、おやつを食べない」と決めて、他人に宣言する方法が有効かもしれません(S)。
実際に、その約束を他人の前で宣言し、ランニングをするかどうかを検証してみます(I)。
もし効果があるようであれば、その約束と宣言を習慣にしてみましょう(C)。
このように、「継続するための仕組み」を戦略的に考えることで、新しい行動を習慣化できるのです。
(本稿は『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』の発売を記念し、東京大学大学院経済学研究科教授 阿部誠氏へのインタビューをもとに作成しました)